2021-03-07

【東京大学第30代総長・五神真氏が6年間を総括】世界規模で課題が山積する今、「『知の協創の世界拠点』として、今こそ大学の出番」

五神 真 東京大学第30代総長


サイバー空間を
健全な公共的な空間に

 ─ 大規模な連携で組織にも良い変化が起きていると。 五神 はい。今、世界で起きている様々な課題を解決するには企業との連携が欠かせません。

 地球環境問題でも、環境を脅かしている原因は人間なので、人間の行動を制御することが必要です。例えば「何を食べようか」というように、次の行動を決めるとき、我々はスマホで検索する場合が増えました。つまり、サイバー空間にある多様なデータに基づいて、行動選択をするようになっている。ということは、人間の行動をコントロールしようとすると、サイバー空間の情報をうまく使うことができるかどうかが重要になります。

 ところが、問題は、そのサイバー空間が荒れ果てていることです。SNSも言いたい放題、フェイクニュースもまん延している。そういうものが地球環境という物理的な世界と、既に人間を介して不可分になっている。サイバー空間が荒れ果てたままで、地球環境を良くすることはできません。

 例えば、カーボンニュートラルのためにみんなが貢献し、誰がどうコストを負担するのかをデータを見ながら決めていくとき、そのデータが改ざんされている可能性があったら誰も信用しません。

 サイバー空間、あるいはデータが集まる空間を健全な公共的な空間、つまり、〝コモンズ〟にしなければいけないのです。

 地球という物理的な空間だけではなく、サイバー空間もグローバルなコモンズだと捉えて、それを良いものにするために貢献した人が評価され、逆の行動を取った人は、それがみんなにも伝わるようにして行動を律するようにしていくことが必要になります。

 地球を守ることと同じくらい、サイバー空間を守るために貢献するという行動を促していかなければいけないのです。そこで、そのための仕組みをつくろうと考えました。

 ─ そのプラットフォームに大学がなると?

 五神 そうです。東大では、昨年8月にグローバル・コモンズ・センターを設置し、Global Commons Stewardship Indexという、グローバル・コモンズを守るための、世界に通用する指標を発行し流通させようとしています。

 例えば、エネルギー問題だけの単一の指標では、自国に不利なのでパリ協定のような国際的な枠組みから離脱するといった動きが出てきてしまいます。そこで、様々な重要な要素についての指標を組み合わせ、各国がグローバル・コモンズを守るためにどのくらい総合的に貢献しているか、科学的に評価していくことを目指します。

 昨年12月のTokyo Forum 2020で、そのプロトタイプ版を公表しました。これにより、東大が何をしようとしているか、具体的に伝わり始めていると感じます。



東京大学総長 五神 真 Gonokami Makoto
【プロフィール】
ごのかみ・まこと
プロフィール1957年生まれ。東京都出身。80年東京大学理学部物理学科卒業。理学博士(東京大学)。光量子物理学を専攻。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授、東京大学大学院理学系研究科長・理学部長などを経て、15年より第30代東京大学総長に就任。

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