2023-03-29

SBSホールディングス・鎌田正彦社長が語る「グループ化したからと言ってリストラはしない!」

鎌田正彦・SBSホールディングス社長

「買ったとか買われたとかは関係なく、我々は仲間であり、心を大事にするんだ」─。3PL(企業の物流受託)大手のSBSホールディングス(HD)社長の鎌田正彦氏はM&Aの要諦についてこう語る。人手不足が懸念される物流業界でも年々売上高を拡大。雪印乳業をはじめ、東急電鉄、ビクター、東芝、リコーなどから物流子会社をM&Aして業界大手の地位を築いた鎌田氏。その鎌田氏が貫くSBS流のM&Aとは?

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佐川急便のドライバーで出発

 ─ 1987年の創業から約35年。この間、株式上場を果たし、売上高4500億円の3PL大手に成長しました。

 鎌田 宮崎県延岡市から上京して19歳で佐川急便に入社しました。3年間、同社のドライバーとして働いてお金を貯め、当初は海外に留学しようと思っていたのですが、1980年代後半になると、物流が日本経済を支えており、面白い産業だと感じるようになったのです。

 私の父は材木屋を経営していたのですが、資金繰りに困って倒産。手形を使ってお金が動く仕事だったからです。一方で運賃をもらう物流は現金商売。手形に頼る必要はありません。そして、日本の産業は製造メーカーを頂点に、製造した製品を問屋に卸し、問屋から小売りにわたって消費者に届けられます。その間には物流があると。

 ─ そこで物流の重要性に気づいたわけですね。

 鎌田 ええ。その中で私が感じていたのは佐川急便にいたときは宅配便が主な仕事で、お客様から物流に関わる仕事をやって欲しいと頼まれても受けることができませんでした。ですから、お客様から何かを頼まれても断らない物流会社をやりたいと思って28歳で独立したのです。

 ベンチャー企業ですから佐川急便と同じビジネスモデルでは勝てません。資金もないですからね。そこで貨物運搬用の軽自動車を利用した軽貨物事業に乗り出し、創業1年目で約10億円の売上高を達成できたのです。そして佐川急便時代に培った営業力やノウハウが生きて5年目には年商25億円になりました。

 ─ 急成長すれば大手企業からの攻勢も受けませんか。

 鎌田 はい。ですから私は会社を大きくしないと大手に対抗できない。まずは自分で会社の将来像を描いたのです。それが創業10年目で年商100億円、20年で1000億円、そして30年で2000億円です。新聞広告でもそれを宣言しました。周囲からは「そんなこと、できるわけがない」と言われたこともありましたけどね。

 そして実際に目標を達成するためには何をするべきか。ベンチャー企業が何千億円もの売上高に成長するためにはM&Aしかない。そう思ったのです。そしてM&Aをするためには上場するしかないと。そこで年商100億円のときに上場に向けて動き出しました。

 ─ なぜ成長に向けた選択肢がM&Aだったのですか。

 鎌田 当時、日産自動車を再建するため、カルロス・ゴーン氏が乗り込み、グループの物流会社を売却していたのです。「日本にも、こういう時代が来た」。そう直感しました。つまり、メーカーの物流会社が売却される流れが来ると感じたのです。

 当社は2003年にジャスダック(当時)に上場しましたが、当時の営業利益は4億円。ただ、当時の株式マーケットは好調で、売上高200億円の会社でも時価総額は780億円になりました。そこでファイナンスに乗り出し、公募増資を行いました。その結果、自己資本が100億円規模になったことでM&Aに乗り出したのです。


買収した企業を成長させるには

 ─ 最初にM&Aしたのが雪印乳業の物流会社でしたね。

 鎌田 はい。上場した翌年に雪印物流をM&A。これが物流業界にも大きなインパクトを与え、M&A案件の相談が来るようになりました。05年には東急グループの東急ロジスティック、06年には食品物流の全通、10年には日本ビクターのビクターロジスティクスをM&A。

 さらに18年にはリコーのリコーロジスティクス、20年には東芝ロジスティクス、21年には古河電気工業の物流子会社である古河物流といった具合です。

 途中、17年に創業30周年を迎えたときには年商2000億円という目標を達成できていなかったのですが、リコーロジスティクスの買収で31年目に目標を実現することができました。そういう意味では、30年計画は、ほぼ達成できたわけです。

 ─ 買収した後の手法は?

 鎌田 基本的に全て別会社とし、ホールディングスの下にぶら下がる形にしています。そして、当社が買収した会社は成長しています。例えば、東急ロジスティック(現SBSロジコム)は営業部隊を増強して倉庫も増強。システムも改修してローコスト運営にしたら利益は5倍になりました。

 ─ そのSBS流のM&Aの要諦とは何ですか。

 鎌田 買ったとか買われたとかは関係なく、我々は仲間であり、心を大事にするんだと。ですからグループ化したからといってリストラはしません。皆で無駄を省き、効率化を図りながら業績を上げていくわけです。そして、もし買収した会社に倉庫がなかったらSBSが土地を仕入れて倉庫を建てると。

 ですから財務にも強くなければなりません。その点、当社には財務や不動産、金融に強い人材が揃っています。買収した企業の中にはSBSグループに入って給料が上がった会社もある。

 事業を縮小させるのではなく、当社が資金を出して、どんどん拡大させていくと。そういった成長するための手法を教えていくわけです。倉庫での荷物の積み方などのオペレーションや人員の最適な配置などSBSグループのメソッドを全て教えるのです。そうすると、業績の悪かった企業の業績も上がります。

 ─ ホールディングスの組織づくりはどうするのですか。

 鎌田 やはり優秀な人材はいます。そういった人たちがモチベーションを上げて働いてくれる仕組みになっていますから、どんどん出世もしていく。ですから、ホールディングの役員は全員が社外出身です。もちろん、買収先に在籍していた人もいます。皆、出身企業はバラバラですが、これが良いのです。

 ─ グループ会社は何社あるのですか。

 鎌田 33社です。M&Aをする企業はたくさんありますが、ただぶら下げているだけでは意味がありません。単に売上高と利益を積み上げているだけです。しかしSBS流のM&Aは違います。買収した会社を変える力とノウハウがあります。


読売新聞の配送網を活用

 ─ 一方で新たな事業の開拓にも乗り出していますね。

 鎌田 eコマースのプラットフォーム事業に本格参入します。「EC物流お任せくん」というサービスなのですが、入庫から保管、出荷、流通加工、ラストワンマイル、サイト制作から運用、受注管理、EC物流といった、あらゆるフェーズをワンストップでサポートします。

 当社にはM&AでIT人材が200人ほどまでになりました。そしてロジスティック・テクノロジーと呼ばれる物流関連のロボットを運用する技術集団が50人ほどいます。彼らの技術力を使ってシステムやロボットを提供していく予定です。

 ─ 新たな拠点も設けたりするのですか。

 鎌田 24年初めに千葉県野田市の物流センターが稼働します。このセンターのワンフロアはロボットが縦横無尽に動き回ってピッキングを行うなど、EC物流に特化しています。延床面積は約5万坪、ワンフロア1万坪です。

 なぜeコマースなのか。やはり今後もeコマースは確実に伸びていきます。アマゾンや楽天グループなど自前で物流を手掛けている会社もありますが、中小企業などは物流に関して本当に頭を悩ませているんです。

 そういった中小企業の悩みに応えるため、我々が大規模な物流センターを作り、その中でロボットが荷物をピッキングして出荷を代行する。さらにそこで終わりではなく、その先の配送も我々がお手伝いしましょうと。

 そもそも当社には国内外700超の拠点があります。倉庫の面積で言えば80万坪です。これを100万坪にまで広げようとしているところです。既に土地の手当ては済ませており、建物を建てたら軌道に乗せて流動化し売却します。そこで得た資金で、また新たに土地を購入するといったサイクルになります。

 ─ そういったノウハウは自分たちで考え出したのですか。

 鎌田 そうです。ですから当社には物流と全く関係のないジャンルを担当する社員も大勢います。土地を仕込んで建物を建てるといったデベロッパーのような仕事をする社員もいれば、金融のスキームで不動産を流動化させたりする金融の仕事を専門とする社員もいるのです。

 ─ 人手不足が産業界全般の課題となっていますが、どのように手当しているのですか。

 鎌田 宅配の配送ネットワークの拡充に関しては、首都圏1都3県で読売新聞社の販売店とラストワンマイル配送で連携しています。販売店にとっては新聞の購読数がどんどん落ちていて、このままでは維持することができなくなってしまう。そこで既にある新聞の配送ネットワークにeコマースの荷物を載せてみましょうというわけです。

 1日1万個ほどの荷物を既に運び始めています。もともと配達のプロたちですから配送の精度や品質は良いわけです。ですから、できるだけ読売新聞の配送ネットワークに荷物を載せていこうと考えています。

 ─ 国内は人口減ですが、物流の掘り起こしはできると。

 鎌田 もちろんです。日本には物流会社が約6万3000社あります。その中のトップ層に上り詰めれば生き残れます。トップ層に入り込めば、人もどんどん集まってくる。ですから我々もまずは売上高5000億円を目指し、次は30年に7000億円を目指すと。それが実現できたら1兆円、そして3兆円を目指していきます。


海外展開もM&Aが生きる

 ─ 海外市場の開拓は?

 鎌田 既にSBSグループには東芝やリコー、古河電工の物流子会社があります。つまり、それらの拠点や人材が世界中にあるわけです。それらの拠点を連携させていけば、海外での新たな事業も展開することができます。アジアはもちろん、インドや欧州もそうです。これがM&Aのもう1つのメリットでもあります。

 こういった取り組みはSBS単独ではできません。ただ、M&Aで買収した会社の能力を活かすことはできます。その能力があれば会社は化けます。そういった人たちに気持ち良く働いてもらって、彼らを生かすことができれば最高なわけです。

 そしてこのことは日本のためにもなります。SDGsや脱炭素が叫ばれていますが、M&Aで物流会社が集まってくれば車両も共同使用できます。共同使用できれば使う車両も減り、CO2の排出量も減ります。

 そもそもメーカーは他のメーカーと連携はしません。しかし、当社のグループに入ってくると、全く異なるジャンルのメーカーが一緒に協働することができるのです。ですから、当社にはたくさんのM&Aに関する相談が寄せられてくるのです。

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