2023-03-21

「収益性を高めるには真似できない商品を」 【サントリー】が進める「おもろい」商品づくり

専用ボトルに飲用水を入れてキャップを装着すれば、キャップからミネラルエキスが噴射される

資源・エネルギー価格や原材料費、物流費など、食品業界にまつわるあらゆるモノの価格が上昇していく中、サントリーグループが新たな切り口で新商品を投入する。ウイスキーでは600円台の缶商品、キャップをひねるだけで、まろやかな味わいの水に変えることができる商品などだ。同社の商品づくりの肝は「おもろい」。その真意は収益性の高い商品づくりにつなげることだ。

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創業者の〝執念〟が生んだウイスキー

「RTDと呼ばれるジャンルでも、いかに収益性を高めていくか。そのためには他が真似できない独自性のある商品をつくっていくこと。これはサントリーが得意なところ。利益率こそ最終的な会社の力だ」─。サントリーホールディングス社長の新浪剛史氏は米ビーム統合で学んだ教訓をこう語る。

 いかに収益性の高い商品やサービスを生み出していくか。それを支えるのは付加価値の高い商品づくりだ。サントリーにとって2023年は様々な事業で節目の年に当たる。

 その1つがウイスキー。23年は創業者・鳥井信治郎氏が山崎の地でウイスキーづくりに着手して100年、白州蒸溜所は50年を迎える。この2つの蒸溜所で100億円規模を投資し、大改修を行うと決めた。ポイントは品質向上と顧客の体験価値向上の取り組みだ。

 同社にとってウイスキーは創業者の〝執念〟とも言える熱意から始まった祖業の一つだ。ウイスキーづくりの総責任者である「マスターブレンダー」は創業家が代々務めており、ものづくりの哲学を受け継いでいることが、それを物語る。酒類事業を束ねるサントリー社長の鳥井信宏氏は自社の歴史を踏まえて次のように語る。「品質向上と需要創造を次の100年も愚直に取り組んでいく」。では、そのウイスキーの品質向上とは何か。

 1つが両蒸溜所で一部導入する「フロアモルティング」という伝統的な製法だ。原料の大麦を床一面に広げ、人の手でかき混ぜて麦芽をつくる方法。機械による工程よりも「人手がかかる」(同社関係者)が、大麦由来の香味をより引き出せるという。

 また、山崎蒸溜所で50年以上前からある小規模な蒸溜設備を改修し、クリーンエネルギーを意識した電気式加熱の蒸溜釜を導入する。一方の白州では原料の1つである酵母を自製化する「酵母培養プロセス」を導入する。様々な技術開発に向けた取り組みを行い、品質向上につなげたい考えだ。

 サントリーには、一時低迷したウイスキー市場を復活させたという自負がある。同市場は1983年をピークに四半世紀にわたり減少したが、2008年頃から炭酸水で割る「ハイボール」の飲み方を本格的に仕掛けて市場全体を復調させた。食事中に飲む「食中酒」として若年層にも広げたのだ。

 そこでサントリーはこのハイボールを日本の〝ソウルドリンク〟にすべく意欲的な取り組みを行う。それが高級ウイスキー「白州」の「プレミアムハイボール缶」だ。数量限定の発売だが、希望小売価格は350ミリリットル缶で1本600円。使用するのは白州蒸溜所のモルトウイスキー原酒と炭酸水のみ。

 鳥井氏は同商品の価格設定について「社内でかなり議論をした」と振り返った上で、「繁盛されている居酒屋様で高品質のハイボールを飲まれる価格と比べれば、『白州』の中味も踏まえると、600円という価格は非常にリーズナブルだと思う」と話す。

 一般的に酒類の利益率はウイスキーなどの蒸溜酒が相対的に高く、ビールは低い。その点、ウイスキーで一日の長があるサントリーにとっては大きな期待を寄せる商品となる。

 100年という年月と資金を投じてブランド力を高め、収益性の高い商品づくりを徹底してきた強みがサントリーの強さの基盤にある。


伸び続ける飲用水需要に対応

「ライフスタイルが多様化する中で、ペットボトルに入った水とは違う新たな提案をしたいと考えた」─。こう語るのはサントリー食品インターナショナル社長の齋藤和弘氏だ。

 18年から5年連続で「サントリー天然水」が国内清涼飲料市場の年間販売数量首位をキープしている同社が、水ビジネスでも新たな提案をする。そのポイントとなるのは〝キャップ〟だ。同社が開発した「minel(ミネル)」は約1.5リットルの専用ボトルとキャップで構成される。

 キャップには1個当たり2ミリリットルの「植物ミネラルエキス」を充填。専用ボトルに飲用水を入れてキャップを装着すれば、キャップからミネラルエキスが噴射される。家庭の水がまろやかな味わいになるわけだ。実は人口減少にある国内市場でも健康意識の高まりなどを受けて飲用水の需要は伸び続けており、それはコロナ禍でも変わらない。

 サントリーウォーターレポートによると、健康意識の高まりを受け、1人が1日に飲む水の量は12年に546ミリリットルだったのが、22年には約1.8倍の992ミリリットルに増加。飲み水のうちのミネラルウォーターの飲用量も、この10年で約2倍に増加した。一方で課題も出てきた。重いペットボトルを運ぶことが高齢者にとって負担となっていたり、世界的には飲用できる水が不足するといったリスクも認識されてきている。

 そんな中で同社は「小さな発明だが、水の新たな選択肢」(同)となるミネルを開発。キャップ1つで新たなおいしさを味わうことができれば、重量のあるペットボトルを買う回数は減る。また、将来的に懸念される水不足に対しても、家庭の水で対応することができる。

「『おもろい飲み方』を提案するなど、『おもろい社会』になっていくための『おもろい商品』をつくっていく」と新浪氏は語る。サントリーではアルコール度数16%のビールを炭酸水で割って飲む「ビアボール」など業界初の商品も投入している。

 ウイスキーも水もビールも人口減少や原材料費の高騰、他社との熾烈な競争と一筋縄ではいかない領域。そんな中でも「やってみなはれ」の精神を生かし、消費者を惹きつけられる商品をつくれるかどうかが同社の勝負どころとなる。

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