2023-03-12

みずほ証券・上野泰也氏の指摘「政府・日銀『共同声明』に関する議論で押さえておくべき点 」

民間の経営者・有識者らをメンバーとする「令和国民会議」(令和臨調)が1月30日、初めての緊急提言を公表した。財政と金融政策の一体改革に焦点をあてたものであり、政府・日銀による新たな共同声明を作成した上でそれを公表すべきだという主張である。

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 上記の提言は「消費者物価上昇率2%を長期的な物価安定の目標として新たに位置付ける」としており、仮に実現すれば、物価目標の拘束力が弱まる結果、日銀の金融政策運営では柔軟性がある程度増すとみられる。

 また、今回の提言は「政府と日銀の共通目標」の関連で、持続的な経済成長の前提になるものとして、「生産性向上」「賃金上昇」「安定的な物価上昇」の3つを列挙した。

 異次元緩和には金融市場で行き詰まり感があり、同時に、財政規律の弛緩、企業の新陳代謝といった異次元緩和の弊害・副作用が目立っている状況下、日銀の金融政策運営を中心にマクロ経済政策全般を一度見直す必要があることは論をまたない。

 金融市場では、植田和男氏が4月に次の日銀総裁に就任した後、政府との共同声明の修正問題がどのように展開するのかに、強い関心を抱いている。

 ただし、政府・日銀による共同声明の修正・刷新を議論する際に留意すべき、上記の緊急提言では十分意識されていると思えない点も2つあるというのが、筆者の考えである。

 1つは、「共同声明を修正・刷新すること」自体が目的化すべきでないという点。

 日本の政治や官僚組織には、法律や政省令の制定、関連予算の計上、組織改正や新組織設立など、形として「何かを作る」ことが事実上のゴールと化してしまい、それが終わった時点で達成感が漂う結果、フォローアップがおろそかになりやすい傾向がある。

 共同声明の記述内容を修正して、どんなに美辞麗句や理想論を並べるとしても、世の中が良い方向へとすぐに変わるわけでは全くないだろう。政府・日銀が「実際に何をやるか」あるいは「現実問題として何ができるか」の方が、はるかに重要だと考える。

 13年1月の共同声明で直接の当事者だった白川方明前日銀総裁は、最近のインタビューで、この共同声明の早期修正は不要という主張を一貫して展開している。「(共同声明見直しには)あまり実利がないと思います。共同声明は、柔軟な政策を妨げない書きぶりになっているからです。求められていることは、ささいな表現の修正ではなく、日本経済の根本課題を正しく認識すること」(1月31日 朝日新聞)といった内容である。

 白川前総裁は上記のコメントに続けて、その中でも特に、人口減少がどこかで止まるという展望を持てるようにする重要性を認識することです」とした。筆者も全く同じ意見。過少需要・過剰供給の構造を変えていくことがマストである。

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