2021-02-15

ガバナンス問題の第一人者・久保利英明弁護士が語る「コロナ禍のガバナンス」

久保利英明 日比谷パーク法律事務所代表・弁護士

「政治家、役人、メディア、国民、いずれも使命感が欠如している」―─。このような厳しい指摘をするのが久保利氏。年が明けても新型コロナウイルスの感染拡大は収束せず、東京、大阪、愛知などの11都府県では緊急事態宣言が発出された。「国民が皆うろたえるばかりで傍観者面しているのは、果たして成熟した国家のまともな国民と言えるのか」と憤る久保利氏。コロナ禍の今、リーダーに求められる使命感とは。(「財界」2月10日号)


国民の劣化がこんなに進んでいるのか……



 ─ この1年、コロナ禍におけるガバナンスについて、何か感じたことはありますか。


 久保利 これは前にもお話したことですが、基本的にコロナ禍というのは危機ではない。

 昨年末時点で、米国の感染者数が約2千万人、死者が約34万人でした。しかし、日本の死亡者数は約3500人。だから、米国に比べたら、2ケタの開きがある。そもとも、インフルエンザの死者数は毎年年間3千人ですから、過度にコロナだけを恐れる必要はないんですね。

 感染者数も死者数も海外に比べたら低水準で日本の医療コストは世界有数なのに、しきりに医療崩壊につながるという専門家とは何なんだろうと。お医者さんは自分たちの守備範囲のことしか言わないんだけど、政治が感染症のまん延を防ぎつつ、民の暮らしが何とかもつように適切なコントロールをして、経済を回すように考えるのは当然のことです。

 だから二律背反じゃなくて、ほどよく両立を考えていくことは当たり前なんですよね。

 ─ 本当ですね。要するに全体観がない。

 久保利 これはお医者さんだけではありません。マスコミはPCR検査数も発表せずに今日の感染者はこれだけですという意味のない数字を羅列するだけで、分析も対策も示さない。

 政治家は安倍晋三・前首相にしろ、菅義偉・首相にしろ、専門家であるお医者さんの意見を聞くだけで、自分たちで国民と経済をどう救おうかという気概が見えない。役人もみんな自分の立場と忖度ばかりで、国民ではなく、官邸の顔色ばかりを窺って生きている。

 そして、肝心な国民の側も、自分たちはこうしたいという考えがないから、政治家やお医者さんに何とかしてくれというだけで日々うろたえている。政治家の批判をしている人は多いけれども、本当にダメなことがあったら、自分たちで声を上げて何をどこから変えていけばいいのかということをデモでも訴訟でもやって主張しなければならない。

 そういう行動もとらずに傍観者面しているのは、果たして成熟した国家のまともな国民と言えるのでしょうか。

 ─ 自分で危機を脱出しようという気概がないと。

 久保利 ええ。国民の劣化がこんなにも進んでいるのかということに驚かされますよ。

 今はワクチンの開発が世界中で進んでいますが、残念ながら日本はワクチンも持てず、接種認可も遅れている。米ファイザーのワクチンは病院などに届けるまでマイナス70度に維持しなければならないと言うんだけど、これでは日本では無理ですとか言っているわけです。

 でも、南太平洋あたりで捕ってきたマグロはマイナス70度の船で運んで冷凍倉庫で保存しているんだから、マグロの代わりにワクチンを運んでくればいいじゃないですか。日本は世界一の工業国だという自負があるのに、その程度の発想もできないのかと愕然とします。だから、メディア、政治家、国民、すべてが劣化しているということが、今回のコロナ禍ではっきりしましたよね。

 

50年前の自らの体験



 
 ─ これは何でしょうね。戦後75年が経って、日本人の中に必死さというものがなくなってしまったんですか。

 久保利 それはあると思います。戦中、戦後というのは、それこそ今日を生きるために皆必死に闘いました。要するに、戦争のせいにしたり、コロナのせいにしたりしたところで、今の状況というのは変わらない。だったら何をどう解決していけばいいのか。それを一人ひとり考え、行動しなければならない。さもなければ死です。

 足元では自殺者がどんどん増えて、会社がつぶれていく。それはもちろん大変なことですが、日本がこんなに劣化してしまったのは、コロナのせいではなく、すでに国難の時代が来ているんですよ。だから、コロナを機に多くの国民がそれに気づいて、早くやり直すべきだろうと思います。

 最近ふと思い出すのが、わたしが弁護士になってから50年になりますが、その年にスモン訴訟の担当になったことです。

パート2に続く

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