2023-03-15

AGC・島村琢哉会長 「ポジションによって待遇、報酬を変える『日本型ジョブ型制度』も一つの道」

島村琢哉・AGC会長

「日本の良さを生かす必要がある」─AGC会長の島村琢哉氏はこう話す。今、日本全体で「働き方」、「雇用のあり方」が問われる中、「ジョブ型」的あり方にも理解を示しながら、これまでの日本企業のあり方も生かした制度づくりが大事ではないかと訴える。既存事業の深化と、新規事業の探索を同時に実践する「両利きの経営」を進めてきた島村氏。企業と従業員との徹底的な対話が重要だと話す。


「賃上げ」機運が高まる中で…

 ─ 今、日本では賃上げを巡る機運が盛り上がっています。一方で、中小企業などからは難しいという声も出ていますし、生産性の向上がないままの賃上げは単にコストアップになってしまうという懸念もあります。この問題をどう捉えていますか。

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 島村 これまでの当社を含め、多くの日本企業は、この30年間ほぼ賃上げができていませんでした。しかし、改めて考える必要があるのは、会社は「人」が成長させていくものだということです。そこに投じられる資金は「費用」というよりは「投資」だと思うんです。

 ただ、ベースアップで基礎的な部分が上がると最初は嬉しいものですが、3カ月くらい経つと普通になってしまってありがたみを忘れてしまうものです。その意味では、成果が出た時に、そのパフォーマンスがあったからボーナスが上がるという方がやりがいにつながるのではないかと感じることもあります。

 ─ 賃上げの実感をいかに持ってもらうかも大事だということですね。

 島村 ええ。ただ、私の東南アジアでの勤務経験からすると、基本的にはCPI(消費者物価指数)、物価上昇率分は最低限、給与を上げるということが前提になっています。それにプラスアルファして、生活改善給が支給されるというのが一般的です。

 日本の場合は、この30年間ほぼ物価が上がっていなかったわけですが、上がってきたのであれば、その分最低限賃金が上がらないと同じ生活レベルを維持できません。ですから、企業としては、賃上げをしていかなくてはなりません。

 そうすると費用も増えますから、生産性を向上する、あるいはビジネスのスタイルを変えるなどして、利益率を上げていく努力が求められます。日本企業の大きな課題は利益率が低いことにありますから、これをもう一度考えなければいけません。

 ─ なぜ、日本企業はなかなか変わることができないのだと考えますか。

 島村 多くの企業が、昔の成功体験をまだ持ち続けているからではないかと思います。高度経済成長の時代には、大量生産、規模の経済で成長をしてきた日本の構造が染み付いてしまっている部分がある。

 ところが、その大量生産の役割は中国、東南アジアなど海外に移っています。そうすると我々自身が仕事のやり方を考え、ポートフォリオの転換などをやっていかないといけないのです。

 とはいうものの、ポートフォリオの転換は口で言うのは簡単ですが実際には難しい。どうしても過去のやり方に縛られてしまいますし、ではこれから何をやるのかということに、多くの経営者は悩んでいると思います。

 特に日本の経済成長は中小企業が支えていますが、彼らは給与は上げられず、製品の値上げができず、後継者がおらず、人が集まらずという形で、いくつもの苦しみを抱えています。

 ─ この課題をどのように解決すべきだと。

 島村 今の規模のままで課題を解決しようとするから無理があるのではないかと思います。小さな会社が一体となって、一つの大きな組織にしていく。その中で人の手配や資金の課題などを解決していくことも一つのアイデアではないでしょうか。

 ─ その一つの組織に魅力があれば、資金も集まるということになりますね。

 島村 そうです。そうした再編によって根本的に仕組みを変えていかなければ大変なことになってしまいます。

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