2023-03-07

3800万人のマイル会員を基礎に 【ANAHD】が進める「非航空事業」戦略

マイルを使って買い物ができるインターネット上のショッピングモール「ANA Mall」がオープンした

コロナ禍で本業が〝吹っ飛んだ〟ことを契機に非航空事業の推進に力を入れるのがANAホールディングス(HD)。何より、約3800万人が加盟する「ANAマイレージクラブ」をフックに、日常生活でマイルを使用する「ANA経済圏」の確立を目指して足元ではECモールを開始。その後も次々と手を打つ。本業の航空事業が最悪期を脱する中で、非航空事業の売上高を倍増させる計画を掲げる。同社をそこまで突き動かす危機感とは?

ANAホールディングス・片野坂真哉会長が語る2023年 「航空は経済の再開に必要なインフラ!」

パンデミックが起きても耐えられる体質に

「ANAグループの主力事業は今後も航空ビジネスになるが、コロナを経てボラティリティー(変動)に非常に脆い事業であることも再認識した。将来的なパンデミックや災害にも耐え得るようなグループ体質、事業構造への転換が必要になる」─。このように強調するのはANAHD社長の芝田浩二氏だ。

 コロナ禍3年を経て、ようやく航空需要も立ち戻りつつある。しかし、いつまたパンデミックが起こるか分からない。そのときにグループを支える新たな事業の柱をつくっておかなければならないという芝田氏の訴え。同社は過去にも何度か周辺事業の展開は考えてきたが、いま現在の同社が注力するのが「マイル」をフックにした「ANA経済圏」の確立だ。

 1月31日、「ANA Mall」と呼ばれるモールがオープンした。モールといっても現実の施設ではない。デジタル空間でのECモールだ。同モールを運営するのがANAHD傘下の「ANA X」。同社は「マイルで生活できる世界」をコンセプトに掲げるANAグループのプラットフォーム事業会社だ。同社がANAグループの〝非航空事業〟の中核を担っている。

 しかし、他の事業会社によるECモールは乱立している。その中でANAグループの立ち上げるECモールは何が違うのか。EC事業推進部部長の平山剛生氏は「買い物をするとポイントが付き、貯めたポイントでまた買い物をする〝ポイ活〟が盛んだが、当社のモールはマイルを貯めると特典航空券と交換できるという大きなメリットがある。次の消費のためのポイント獲得に留まらず、日常の買い物を楽しみ、暮らしを豊かに彩りながらマイルを貯め、空の旅という非日常の世界につなげることができる」と話す。

 要はANA Mallで買い物をすると、マイルが貯まり、貯まったマイルで買い物もできるというわけだ。モール内の全ての店を対象に、買い物100円につき1マイルが貯まる。また、1マイルを1円として使うことができる。

 さらにグループの「ANAカード」を利用すれば100円につき2マイルにアップする。ANAの直営以外を含めてECモール全体でマイルが貯まる仕組みを提供するのは本邦初。貯まったマイルも特典航空券に引き換え可能であることなど、ANAのマイルならではの連携が最大の特徴だ。

 一方で興味深いのは、このモールが単に一般消費者だけにメリットをもたらすものではないということだ。1月31日のスタート時点で23店が軒を連ねた。成城石井をはじめ、生活家電やパソコンなどを扱うストリームの「ECカレント」、新潟・燕三条に本社を置く調理家電や掃除機などの製造販売を主とする電機メーカーのツインバード、ハースト婦人画報社などだ。


デジタルのビジネスが本業の航空事業に跳ね返る

 ANAもそうだが、各社でECサイトは運営している。その中でANAのモールに出店する意義はどこにあるのか。それが「マイルの会員にリーチできる」という点だ。ANAのマイル会員は約3800万人。しかも、「一般的にECの購買単価は2000円~3000円と言われているが、ANAグループのECサイトでは平均1万円を超えている」(平山氏)。つまり、それだけ富裕層が多いということ。

 出店するツインバードマーケティング部部長代理の古川泰之氏は「当社の商品も一般的な家電よりも機能やデザイン面で趣向を凝らしているので割高。その点、これだけ多くの富裕層にアクセスできることは非常に魅力的だ」と出店理由を語る。

 一方のANAにとっても「これまでグループで仕入れて販売することもあったが、仕入れられる範囲に限界があった。しかし、モール型にして他社にも出店してもらえれば、比べ物にならないほど品揃えが拡充する」(担当者)。さらに、「購入した商品に魅力を感じれば、次は現地にまで行ってみたいという移動需要にもつながる」と平山氏。

 デジタルの世界でのビジネスが本業の航空事業にも跳ね返ってくる─。これがANAが目論む「ANA経済圏」だ。今回のモールがオープンする以前から、同社は布石を打ってきた。昨年10月には、マイル会員が加盟するマイレージプログラム「ANAマイレージクラブ」をゲート(入り口)アプリケーションとして刷新している。

 また、航空券の予約や搭乗などをする「ANAアプリ」や徒歩や交通機関の移動距離などに応じてポイントが貯まる「ANAポケット」なども実装。春にはQRコード決済「ANAペイ」の機能を拡充し、QRコード決済のほか、タッチ決済などにも対応するといった具合に決済機能も強化する予定だ。

 さらにはメタバース(仮想現実)空間でも買い物や旅行ができる世界を見据えている。そのため、ANAHDは売上高2000億円の非航空事業を数年以内にコロナ禍前の2倍となる4000億円にまで増やす意向だ。

 もちろん、同じようにマイル会員約3000万人を抱えるライバルの日本航空も追随。同社もANAのモールがスタートした1週間後にECモール事業に進出することを表明している。また、楽天やアマゾンといったEC企業との競争にもなる。

 目下、両社の23年3月期業績では最終黒字化の目途がついた。ただ、「誰も移動しない」というパンデミックの教訓は大きい。経営を安定させる意味でもANAグループの総合力が試されることになる。

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