2021-02-12

【経済の本質を衝く!】上野泰也・みずほ証券チーフマーケットエコノミスト「東京五輪・パラリンピック中止でも経済への影響は限定的?」

開催が1年延期された東京五輪・パラリンピックだが、新型コロナウイルス危機が収束するめどが立たない中、観客を入れての開催は風前の灯になっている感が強い。国際オリンピック委員会(IOC)は開催の方針を変えていないが、関係者の間には無観客開催を示唆する声もある。今回は開催中止としたうえで、まだ開催国が決まっていない2032年にあらためて立候補する方向との、英有力紙による報道もあった。

 感染力の強い変異種が英国や南アフリカなどで確認されて世界に広がる一方、ワクチンの接種はなかなか進まず、経済力が乏しい発展途上国はワクチンの入手さえ困難な状態に置かれている。オリンピックに選手団を派遣できない国が多くなると、開催の意義自体が問われる。国内競技会のようになれば日本の金メダル量産との、皮肉交じりの声もある。

 では、仮に東京五輪・パラリンピックが再々延期されず中止になる場合、日本経済に及ぶダメージはどうだろうか。かなり大きくなるという見方もあるが、筆者は懐疑的である。

 まず、必要なインフラ整備は当初開催予定だった昨年夏までに終わっているということを認識する必要がある。新国立競技場や選手村に使用するマンションをはじめとする様々な建設投資は、すでに一巡した。トイレや標識などの整備についても同様である。

 また、五輪・パラリンピック開催期間中に海外からの大量の観光客来日がなくなる点では、新型コロナウイルスの感染拡大阻止のために、海外との人の行き来をすでに強く制限している。インバウンド需要はすでに消失しており、そこからの変化はほとんど生じない。

 各種競技を大きな画面で観るためにテレビなどを買い替えるといった耐久消費財の特需も、国内のムードに事前の盛り上がりがあれば多少は期待できたのかもしれない。だが、世論調査の結果や世の中の雰囲気は五輪開催についてはすでにあきらめムードが強いように見える。それどころか、五輪強行開催に反対するSNSへの投稿も少なくない。

 菅義偉内閣は、ウイルス感染拡大阻止と経済活動維持の両立を掲げつつも、「Go Toトラベル」停止や緊急事態宣言再発令の遅れに代表されるように、後者をやや優先する姿勢をとったことが裏目に出て、世論調査で支持率を大きく落とした。

 東京五輪・パラリンピック開催問題は菅内閣にとって、政治的に非常にやっかいな問題である。予定通りの開催が事実上は公約になっているので、中止となれば政治的求心力の低下は避けられない。無観客開催を選んだ場合でも、批判を浴びやすいだろう。そうした中では、経済への追加的な影響は限定されると強調するわけにもいくまい。

 いずれにせよ、五輪・パラリンピック問題の行方は様々な角度から要注目である。

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