2021-03-07

【東大が進める大学改革】大学債発行、産学連携を推進ーー。東京大学総長・五神真の「大学は、社会変革を駆動する拠点として」

五神 真・東京大学 第30代総長


人類は自らをどう
コントロールするか?

 2020年(令和2年)はコロナ禍に世界中が見舞われた。
 五神氏はこのコロナ危機をどう捉えているのか──。

「コロナは一昔前ならば、ある地域の風土病で終わったものかもしれません。それが瞬く間に全世界にまん延したのは、人間の活動がいかに世界規模になっているかということを示していると思います。温暖化も産業革命以降、人の活動が拡大し続けたことによるものです。人の活動が地球全体の生態系や気候に影響を与えるようになった地質時代を“Anthropocene(人新世)”と呼びますが、人間が自分自身をどうマネージしていくかについて、コロナでも温暖化でも大きくクローズアップされたということだと思います」

『人新世』。〝じんしんせい〟、あるいは〝ひとしんせい〟とも読むが、人類が地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼすようになった時代を指す言葉。

 人類の活動は1万1700年前から始まったとされる。ここから今日までを『完新世』が続いてきたが、人類の活動が地球全体に影響を与える時代に入ったという意味で、『人新世』が使われる。

 特に約200年前、18世紀後半からの産業革命が自然破壊を進め、気候変動などを引き起こしているという認識が高まる。

 大学も、このコロナ危機下、オンライン講義が教師陣の対面授業と併用されているが、その中身は学部によって違う。医学部などは実習要素が多く、対面授業が多いという。

「もし、コロナ感染が10年前に蔓延していたら、例えば大学の活動などは致命的な影響を受けていたでしょう。いまやデジタルトランスフォーメーションの成果で、オンラインで質の良い講義や研究も可能になっているので、何とか活動を止めずに教育研究ができています。これは他の分野でも同様な状況だと思います。コロナ禍で、ここ10年弱のデジタルトランスフォーメーションの進展を、改めて認識しています」と五神氏は語る。

デジタル革命の功罪

 一方、デジタル革命(DX)のマイナス面も出現。

 このDX自身が経済活動を大きく変えたのは間違いないが、それが一方ではデータ独占になってしまうのではないかとか、格差拡大につながるのではないかということ。

 米国でも、司法当局が独占禁止の観点から、アップルなどのGAFAMによる構築に監視の目を光らせ始めるなどの動きが出ている。

 そうしたプラス、マイナス両面の要素を内包しながら、DXは進化するという時代の流れ。

 温暖化の問題にしても、日本も2050年時点でカーボンニュートラル(CO2排出ゼロ)を目指すと宣言。中国も2060年にその目標を実現すると宣言。米国もバイデン大統領誕生で、環境調和型の政策に転換。

「ただ、2050年にカーボンニュートラルを目指すと菅義偉首相が宣言したとはいえ、その実現はかなり難しい。技術的に克服しなければならない難題が山積していますし、まだ見つかっていない全く新しい技術が必要になるはずです。法や経済ルールなどの変更も不可欠です。全体のコンセンサスを得ながら社会を変えていくことは、そんなに簡単ではありません」

 五神氏は、そのソリューション(解決策)を見つけ出すために、国の境、大学間の垣根を超えて、文字どおり『知の協創』をやっていこうと訴える。

大学も淘汰される時代
提携・統合で再編成へ

 人口減、少子化という人口動態、さらには国の財政の悪化が大学運営に影を落とす。

 日本が〝失われた20年〟ないし〝失われた30年〟に突入する1990年代初頭から、18歳人口は90万人近く減った。1992年に約205万人いた18歳人口は、2000年に約151万人、19年には約118万人と減少。新生児も2019年は86万5234人(前年比5万3000人強減)で史上過去最少。

 日本の大学の数は781校(2020年4月現在)。うち国立大82校、公立大91校、私立大592校と私大が全体の7割以上を占める。

 大学経営は国公私立を問わず、厳しさが増す。大学淘汰の時代といわれるユエンである。


 国立大学も2004年に法人化が決まり、国からの運営費交付金への依存体質からの脱却が求められるようになった。主体的に自らの責任で大学経営を変革して、外部資金を自ら調達する努力が求められるようになったのである。

 大学発ベンチャーを起こし、出資金の配当収入や自分たちが蓄積してきた技術の特許権、あるいは産業連携などで生まれる寄付金収入など知的財産の有効活用をどう図っていくか。これはもう経営感覚が問われる時代に入ったといえよう。

 私立大学はどうか?

 例えば、早稲田大学が創立(前身の東京専門学校は1882年=明治15 年設立)以来、校歌にもあるように、『学の独立』を謳い、そのためには大学運営の財政的基盤を確立することを目指してきた伝統がある。理財(経済)中心に運営してきた慶應義塾にしても、財政基盤の充実に努めてきたという歴史。

 国立大学は、1877年(明治10年)設立の東京大学をはじめ、国からの運営交付金主体に運営されてきたわけだが、前述のように国立大学法人化(04年)をきっかけに、自らが経営主体となって外部資金の導入もやらざるを得なくなった。

 当初、この法人化には反対の声も根強かったが、法人化以来、16年余が経ち、国立大学の間で〝自立〟の動きが顕著だ。

 そうした〝自立〟を促すものが『一法人複数大学制度』である。大学同士が提携して新しく法人をつくり、その傘下に複数の大学が集まるというものでアンブレラ方式ともいわれる。

 2020年に名古屋大学と岐阜大学が提携して東海国立大学機構を設立。21年には静岡大学と浜松医科大学が静岡国立大学機構を設立することで合意。

 また22 年には、北海道の小樽商科大学、帯広畜産大学、北見工業大学の3つの単科大学が北海道連合大学機構、さらに奈良女子大学と奈良教育大学が国立大学法人奈良を設立する予定だ。

 大学も淘汰される時代ということで、各大学とも自らの強み、得意領域を提携などでさらに伸ばしていこうと懸命だ。

 東京大学は昨年春、早稲田大学と提携し、国立と私立の壁を越えての提携と注目された。

「早稲田は海外からの学部留学生が多い大学で、東大とも違う校風。新しい息吹を取り入れたい」と五神氏は語る。

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