コロナ危機でも営業利益率13%と好績ながら、市場の評価は軟調─。この課題を乗り越えようと、日本特殊陶業が事業構造改革を進めている。「内燃機関の自動車のピークが2030~35年と言われている。うちの場合はアフターマーケットがあるので、その後10年まで利益を出せるが、その後はしんどくなる。今、元気なうちに体制を変える必要がある」(日本特殊陶業社長・川合尊氏)からだ。祖業を磨き、成長を続けてきた同社は、新たな成長をどう図ろうとしているのか─。第2四半期は過去最高の収益「4~5月は落ち込みましたが、9月は過去最高、10月もかなり調子の良い状態です」(日本特殊陶業社長・川合尊氏)
コロナ禍で多くの企業が大打撃を受ける中、日本特殊陶業の業績は早くも改善。第2四半期は過去最高の収益を更新し、営業利益率も13%台まで回復。2021年3月期も売上高4170億円(前年比2・1%減)、営業利益480億円(同0・9%減)と減収減益だが、ほぼ前年並みの利益を確保する。
好業績の要因は、エンジンを着火させる「スパークプラグ」や排気ガスを検出する「センサ」など自動車関連部品の好調。スパークプラグは自動車の販売台数増加に伴い、需要は右肩上がり。さらに消耗品で定期的な交換が必要なため販売数量の約75%が補修用途となっている。
日本特殊陶業は、ほぼすべての自動車メーカーと取引があり、スパークプラグで世界シェアトップ。セラミックスの材料開発から製造まで一貫して行い、各メーカーの高い要求に応えている。
また、排気ガスのクリーン化で必要とされるセンサでもセラミックスの特性を生かし、事業を拡大させてきた。
この10年を見ても、2011年3月期の売上高2692億円、営業利益288億円(営業利益率10・7%)が、20年3月期には売上高4262億円、営業利益464億円(同10・9%)と倍近い成長を遂げている。
良品追求に加え、本体4拠点、国内製造法人13社、海外製造法人21社の体制を構築するなど、市場の成長に合わせてグローバルな拠点整備を進めてきた結果だ。
この5年間で約2000億円の自動車関連の設備投資、また新規事業育成などの先行投資で、近年、営業利益率は低下しているが、14年度には営業利益率17・9%を叩き出し、今も10%を超える高い利益率を誇る。
これだけの好業績であれば、市場の評価も高いはずだが、そうではない。
売上高ポートフォリオは82%がプラグやセンサなど自動車関連製品。日本特殊陶業が手掛けるのは内燃機関(エンジン)向けの部品で環境規制の強化に伴い、30年代半ばをピークに市場は縮小すると見られているからだ。
機械工具、産業用セラミックス、半導体パッケージ・基盤、医療関連製品などの事業もあるが、先行投資の事業も多く、利益はほぼすべて自動車関連事業が出している状況だ。
2020年6月に発表した、2040年を見据えた「2030長期経営計画」では、30年には内燃機関事業の売上比率を現在の82%から60%に引き下げ、成長事業、新規事業で残り40 %を稼ぐ目標を立てている。
売上高目標は7500億円、営業利益率15%以上を掲げており、内燃機関向け事業を拡大しながら、新事業を育成し、内燃機関の比率を下げる計画だ。
目標達成に向け、外部人財の登用や新たな評価システムの導入、カンパニー制や分社化、社名変更まで視野に入れた組織改革も進めている。
日本特殊陶業は1936年、日本発のスパークプラグを発売するために設立された。祖業のプラグ事業を磨き続け、成長を遂げてきたが、事業環境の変化に伴い、今、新たな分野での成長が求められている。
【自動車産業は、今後どうなる?】