2023-02-08

【コバーズキッズ・小林幸典CEO】「保育園業界にビジネスの感覚を取り入れ、夢の実現に努力する子どもを育てたい」

小林 幸典・コバーズキッズCEO

新しいことに挑戦する意欲を含めて人格は5歳までに決まる─。その意味では幼児教育が大事として株式会社による保育園の運営を手掛けるのがコバーズキッズ(山梨県甲斐市)。「甲斐ひよこ保育園・ひよこ保育園」を運営する同社CEOの小林幸典氏は「なぜ日本人はネガティブなのか。それは自分に自信がないからではないか」と問いかける。山梨の地で新しい幼児改革を手掛ける小林氏に経営ビジョンを聞いた。

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頻発する保育園の不祥事


 ─ 昨今、保育園の保育士による不祥事が多発しています。今の保育の現場をどのように分析していますか。

 小林 根本的な原因は、国の保育政策はほとんど変わらず、制度疲労と保育園を運営する自治体や社会福祉法人などの理事長や経営者の多くに、社会環境の変化に対応したガバナンスが不足している点だと思います。要するに保育・幼児教育へのビジョンやマネジメントが弱いと感じます。

 その結果、保育士は使い捨てのように働かされるだけで仕事に夢が持てない。新しい保育士が入ってもマネジメントが弱く、大手企業のような人財育成ができずにいる園が多いのです。

 経営トップの「この保育園の子どもたちが将来の人生を生き抜くためにはこうすべきだ」といった夢やビジョンが伝わらないのです。そもそも今の保育業界には過酷な労働環境(手書き文化・書類持ち帰り・長時間労働)があり、保育士の身も心も疲弊してしまう。それもサービス残業で低賃金です。さらに園内の風通しや情報共有が悪く、居づらくなり、退職する保育士が多く出てしまうのです。

 ─ その結果、保育業界からも遠ざかってしまいますね。

 小林 ええ。他の保育園に移る人は少なく、他の業界に移ってしまう。ですから、保育士不足に陥ってしまう。これは山梨県だけでなく全国共通の課題です。この要因の1つは厚生労働省の仕組みや考え方(保育は福祉)が戦後一貫してほとんど変わっていない点が挙げられます。

 例えば保育園では保育士の配置基準があります。0歳児3人につき、保育士を1人つける。1~2歳児6人につき、保育士を1人つける。そして、3歳児なら20人に保育士が1人といった具合です。この配置基準が戦後七十年余の間、全く変わっていないのです。

 そして、保育士の給与は国・自治体から拠出され、それも、毎年の公定価格(保育園への給付金)は国家公務員の昇給率に応じて変動する仕組みです。子どもの人数に対し給付金を出すので、この保育基準等を変えない限り環境は何も改善されない。

 要するに、30人の園児といっても一人ひとりに個性があり、発育により保育士1人でみるのは難しいのが現実の課題です。

 ─ 個別で対応が違うと。

 小林 そうです。しかし今の基準は園児の人数で決まる。国が園児をみる保育士の数を最低10人に1人の割合で増員しないと園児をみることもできず、厚労省が示す卒園児の姿「10の姿」を到底達成できないのです。

 ですから、現在国からの給付金は保育基準数でしか出ないので、仮に保育士を1人増やしたとしたら、そのお金は保育園持ちです。しかし、保育園の経営もICT投資等で余裕はない。そうすると、どうしても現場にその歪みが出てしまうのです。

 そもそも保育士の給料は全業界職種の中で1番安いランクに入り、年収は約300万円台です。これを改善するのが急務です(国家公務員の昇給率を基準に毎年給付金が決まり増減する)。

 ─ この年収は年齢で差が出たりしないのですか。

 小林 さほど変わりません。ですから長続きする人もいないのです。この年収では生活が厳しいので男性が少ないのです。


株式会社による保育園運営


 ─ 運営法人を変えたりして工夫はできないのですか。

 小林 戦後から保育園の運営主体は市町村が中心でした。その後、社会福祉法人・学校法人・宗教法人が認可を受けて運営する方式へと変遷しました。そして2000年になって民間に開放され、株式会社の参入が認められたのです。その結果、内容が劇的に変わりました。

 民間が参入することによって民間マネジメント力でお客様視点の保育園が運営されるようになったのです。企業運営の体制がきちんと決まっており、就業規則も遵守される。経営に見合う利益も出さなければなりません。ただ、社会福祉法人・宗教法人・学校法人は非課税法人です。一方で株式会社になると、同じ給付金をいただき、利益を出し、納税する義務があります。

 その結果、民間に開放されていても運営主体は今も圧倒的に社会福祉法人が多い。80%くらいです。株式会社はまだ10%を切っています。その中で当園は株式会社(コバーズキッズ)による運営です。やはり、民間のお客様視点の経営ビジョンを示し、就業規則を遵守し、適切な経営マネジメントを行い、ステークホルダーとの関係性を重視し、社会に貢献することが大切だと思います。

 ─ 民間の考え方を保育園にも持ち込んでいるのですね。

 小林 はい。ただ大前提は、厚労省の示す保育に関する法の遵守です。つまり、児童福祉法及び関連法令と新保育所保育指針を遵守した上での経営です。自社のパーパスを示し、目指す方向性を社員と共有し、地域社会に貢献することです。一部の社会福祉法人等にはビジョンを示してガバナンスと透明性のある運営で社会に貢献する考え方が少し弱いのかもしれません。

 ─ では、小林さんの描くビジョンを聞かせてください。

 小林 「君が大人になった時、自分を信じて前に進むことができるように」。これが当社のパーパスです。具体的には園児たちがそう振り返る30歳時点で〝自分を信じて前に進んでいる姿〟を1つの区切りとして目指しています。0歳から5歳まで当園が預かりますが、この期間は人間形成の非常に重要な期間と言われています。

 この期間で非認知能力を身につけ、成長の礎にします。人間の脳、いわゆるシナプスとは、だいたい5歳までに形成されると言われています。ですから、そのときの経験がものすごく重要だと言われているのです。

 例えば米国では幼少期の学習環境が最重要だと位置付けられています。4歳までの習得スキルが将来に大きな影響を与えると考えられているのです。つまり保育を教育の一環として捉えているのです。しかし日本の保育園は教育の領域にまで踏み込んでいません。OECD先進国では教育省で日本と韓国だけが福祉の省庁が管轄しています。

 ─ 厚労省と文部科学省の縄張り争いが指摘されます。

 小林 その通りです。それに加えて日本には人財育成の将来ビジョンが見えません。この国を支える人財をどう育て、幼少期には何を目指すかという戦略も見えない。米国の大学入試の面接では「君はこの大学に入って国にどう貢献するのですか?」と聞かれるそうです。つまり社会への貢献を国は期待しているのです。


SDGsの理念を感じてもらう

 ─ かつて日本にも貢献や奉公といったパブリックの世界観が根付いていました。

 小林 はい。米国では世のために働くことによって自分の自己実現を図りながら、その成果として寄付をして、国・地域を支える考え方が根付いているのです。そういった行為が米国では当たり前になっています。また、国として見れば、幼少期からそういった教育をすることで社会的コストの低減を目指しています。

 ─ 制度改革も当然ですが、意識改革が求められますね。

 小林 ええ。今の日本の若者には心を病む人が多く、ネガティブな発想を持つ人も多い。一方で欧米の人はポジティブで前向きです。失敗してもチャレンジする精神を持っています。

 では、なぜ日本人はネガティブなのか。それは心根に自分を信じられていないからです。自分に自信がない。自分はできるんだという想いを持っていない。それは成功した体験が少なすぎるからです。ですから私たちは幼少期に「自己肯定感(非認知能力)」を育む保育を行うべきと考えています。

 ─ 具体的には?

 小林 当園は国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の実践をテーマに掲げ、幼少期からSDGsの理念を身近に感じてもらう活動や3~5歳の園児を対象にした就学前教育に力を入れる中で、チャレンジと失敗を繰り返しながら自己肯定感を育み、指導をしています。

 この「SDGs活動」の時間を毎月設け、園児に環境負荷の軽減など暮らしに身近な開発目標を共有します。例えば、日常の園生活でも廃材を使った工作や残食の堆肥化、雨水タンクを活用した野菜畑や草花の水やりなどに取り組んで、もったいないという意識を育んでいます。

 更に就学前教育では英会話大手のECCや学研の学習教室と連携し、未満児から英語やリトミック、数量・図形・文字などに触れる機会をプログラムに組み込んでいます。加えて、3歳以上は授業形式で学ぶ楽しさを体験させて、小学校課程に適応できない「小1プロブレム」という問題の軽減を図っています。

 ─ 小1プロブレムは保育園や幼稚園を卒園した後に、子どもたちが小学校での生活や雰囲気に馴染めず、落ち着かない状態が続く状態を指し、社会的な課題になっています。

 小林 その通りです。この問題を回避するために小学校では25人クラスにして、人数を減らして担当の先生を付けたりしています。しかも生徒の状況も千差万別ですから、学校の先生の負担も非常に大きくなってしまいます。

 こういった課題を保育園で解決していこうと。当社の調べによると、智能は生まれてすぐに発達を始め、5歳までに9割が完成すると言われています。ですから、幼少期に身につけた経験や環境がその子どもの人生を変えるということです。

 そのための取り組みに力を入れていくためにも、園内でも保育士等の業務のICT化を進めています。具体的には、保育士等にタブレット端末などを配布し、保護者とのやり取りや登降園の管理などを把握し、共有をしています。園内のスタッフの負担を軽減させることで、園児に目を向ける時間を充実させ、保護者との関係性も非常に親密です。

0歳から英語を耳から聞かせる


 ─ 民間ならではの発想ですね。先ほどのECCとの提携で英語とどのような接点を持たせているのですか。

 小林 ECCのカリキュラムは2歳児コースからなので、私たちが0歳児にWebでネイティブな英会話を読み聞かせています。15分間ですが、これを毎日繰り返していくと、子どもは一気に変わる。英語は耳から聞くことが重要ですから0歳でも耳に入ってくる。

 0歳から英語に親しんできた子どもが2歳にもなれば、例えば色や気候、野菜、果物といった基礎的な単語はほとんど覚えてしまうのです。小学校3年生から英語が必須教科ですが、授業が始まっても抵抗感なく対応できるわけです。

 ─ そもそも小林さんが保育業界に身を投じたのは?

 小林 私は37年間のサラリーマン経験とシステム開発会社を経営してきたのですが、保育業界をビジネスの世界から見たときに、あまりに違和感を覚えたのです。経営の常識という視点が見当たらないのです。それを何とか変えたいという思いが1つ。子どもを取り巻く保育環境を変えることで、自分が好きで、自分の描いた夢の実現に近づいていくのです。

 ですから当園では「自己肯定感(非認知能力)」を身につけることを基礎として考えています。頭の良い子を育てるためではなく、子どもたちが夢を描き、経験を通して生き抜く力を育み、園児ごとの良さを観察して方向性を見出してあげることを保護者に伝えています。

 そして、この事例を少子化で定員不足などにお困りの施設の皆様方にもお役立ち相談として提供していくことを来春から始めます。

 結びに、米国ノースウエスタン大学マティス・デゥプケ教授は「不平等の多くは概ね4歳までというごく早い時期に現れる。ほとんどの国で義務教育が始まる前だ。幼少期に習得したスキルが子供の長期的な成功に重要な影響がある。ここでいうスキルとは読み書きといった計測可能なスキルではなく、やる気や根気や頑張りといった『非認知能力』というものだ。

 大切な非認知能力を育むには、ごく幼いうちに子供と養育者の間に質の高い意思疎通や触れ合いが欠かせない。異なる社会的背景を持つ子供の間で不平等が顕在化すのはこの幼少期なのだ」と述べていることをお伝えしたいです。

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