2023-01-17

日銀が追い込まれ「実質利上げ」、求められる「市場との対話」

日本銀行本店

日銀は2013年4月に「異次元緩和策」を導入。当初は円高是正や株価回復に役立ったが、肝心の賃上げを伴う良い物価上昇を展望できていない。最近は急激な円安による輸入品値上げの加速や、市場機能の喪失など、弊害ばかりが目立つ状況だった。内閣支持率が急落した岸田文雄政権内からエネルギー・食品高を懸念する声が上がり、政策変更を見越した投機筋による債券売りも膨らむ中、日銀は従来の異次元緩和策の継続に固執する姿勢から豹変を余儀なくされた。

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金融正常化への第一歩、混乱をいかに回避するか

「ぬるま湯」から「冷気」の当たる時代へ─。

 日銀が10年近く続けてきた異次元緩和策の修正に追い込まれた。12月20日の金融政策決定会合で、長短金利操作(YCC)でターゲットにしている長期金利の変動許容幅を従来の0.25%程度から0.5%程度に広げることを決めた。

 日銀総裁・黒田東彦氏がこれまで進めてきた政策に対しては、景気改善効果は一定程度認められながらも、今回のようなサプライズについては「市場との対話が欠如している」(市場関係者)という批判の声も強い。

 いずれにせよ、金利正常化に向けた「第一歩」、準備に入った形だが、問題は様々な企業や個人が、これにどう備えていくか。

 今後の焦点は政府も企業も家計も長らく「金利のない世界」に浸ってきた中で、経済や市場の混乱をいかに回避するか。

 だが、「中央銀行を打ち負かした」(米ヘッジファンド幹部)と勢いづく投機筋はさらなる利上げを催促して国債売りを仕掛ける構えで、日銀の金融政策運営は一層険しくなりそうだ。

 直近、岸田政権内では、官房副長官の木原誠二氏を中心に円安・物価高対策として日銀に金融政策の修正を求める声が上がっていた。

 ガソリンや電気代、食品などの想定以上の値上がりによって世論が厳しくなっており、政治とカネを巡る閣僚辞任などで内閣支持率低下に悩む岸田政権に追い打ちを掛けていたからだ。

 ただし、日銀は英国の「トラス・ショック」のような混乱は何としても避けたいと考えていたようだ。英国では22年9月、中央銀行であるイングランド銀行が金融引き締めを進める最中、就任したばかりのトラス首相(当時)が大規模な減税や歳出拡大を伴う経済対策を打ち出し、財政運営への懸念から通貨ポンドと英国債が投機筋から売り浴びせられた。

 黒田氏や日銀幹部が直前まで「政策修正の可能性は全くない」と明言していたこともあり、「サプライズ利上げ」は市場や金融界で波紋を呼んだ。決定直後には、為替相場が約5円も円高方向に振れ、日経平均株価も前日終値比800円以上値下がりした。

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