2021-02-09

コロナ危機、そして国内市場縮小の 中、次の成長をどう図るか――アサヒグループHD・小路明善の「国内でビールの進化を図り、グローバル成長を!」



 小路氏は5年前の社長就任時、「経営のグローバル化で新しい成長を追う」という路線を敷いた。ビール類のシェア競争、低価格競争とは一線を画し、プレミアムブランドを意識した経営でグローバル経営に乗り出した。ただ、そうした質を追う経営を志向しながらも、母国の日本でトップブランドの『スーパードライ』が弱体化することは防がなくてはならない。 生ジョッキ缶投入で、『スーパードライ』を進化させる試みのスタートである。

 小路氏は自ら目指すリーダー像として、次のように語る。「わたしがやってきたのは、オペレーショナルなリーダーというのは駄目だということですね。決まった事を決まった通りに経営していくということですから、イノベーション(革新)もディスラプション(創造的破壊)もDX(デジタル革命)もやらないと。新しい事をやらなくて、決まった事を淡々とやる。線路の上を電車が脱線しないように、ちゃんと走らせるということだけではいけない。そうではなくて、線路を引くことが大事。それから攻めができないリーダーも駄目だということ。この2つをキーワードとして、やってきました」

 自らの経営資源や潜在能力をどう掘り起こしていくか──。

「ええ、例えばわれわれの事業から出る副産物の活用です。われわれはビール発酵と乾燥乳酸発酵という技術を持っていまして、こうしたリソース(資源)から事業を展開していこうと。例えばビール酵母細胞壁という酵母の殻です。発酵した後の酵母、その中身は『エビオス錠』(整腸剤)に使ったりします。酵母の殻は乾燥して、ある処理をして、農業資材にすると。ここにグルカンという栄養素が入っ
ていまして、農産物の増量効果が出ることが実証実験で確認されましてね。農産物の免疫機能を強化することによって、農薬も少なくて済みます」

 この酵母の殻の研究は20年4月、環境省の最高賞となる第47回環境大臣賞を受賞。JICA(国際協力機構)と連携して、東南アジアなどでの新しい肥料としての用途を広げる方針。国内でも、岐阜・揖斐川農協が米の減反に対応して、水田をサツマイモへの転作に切り換えたところ、収穫量が前年比で1・3倍に増えたことが実証されている。子会社・カルピスの発酵菌(カルスポリン)を養鶏で活用すると、抗生物質の投入を少なくできることも分かった。

 社会課題の解決へ──。日本の農業、畜産に自分たちの資源を役立ててもらおうという取り組みも進む。また、工場の排水から得られるメタンガスを処理して電気を発生させ、それを蓄電するシステムも開発。ESG、SDGsを意識した環境経営にも注力。「日々の事業課題では来年、3年後何をするかも大事ですが、このコロナ危機から学んだことは、ある日突然リモートワークという10年後の未来が現実のものになると。そうすると、30年先の社会像、世界の姿を読んで人々の価値観、世界の政治、外交情勢を分析して、バックキャストする。そこでアサヒグループとして、社会の変化に対応した事業構成にしていきたい」

 グローバル展開の中で、地に足のついたローカル経営を、そして、2050年頃を見据えて、今、自分たちは何をやるべきかというバックキャスティング経営の実践である。

本誌主幹・村田博文

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事