2021-02-09

コロナ危機、そして国内市場縮小の 中、次の成長をどう図るか――アサヒグループHD・小路明善の「国内でビールの進化を図り、グローバル成長を!」

コロナ危機にあって、中長期視点での生き抜く戦略をどう構築するか、そしてリーダーの役割とは─。決まった事を淡々とやる、鉄道でいえば、従来の線路の上を走るのではなく、「新しい線路を引くこと」とアサヒグループホールディングス社長兼CEOの小路明善氏。折しもコロナ危機で、主力のビールやその他の酒類が打撃を受ける中での成長戦略の構築。酒類、飲料、食品という中核事業の中で、酒類は料飲店向けなどの業務用がマイナス影響を受けた。“巣ごもり需要”増に応えるため、家庭で楽しむビールの新製品開発にも注力。コロナ危機の影響は2021年も残り、新しいステージは「2022年からになる」との見通しの中、小路氏は16年の社長就任時以来、新たな成長を求めてグローバル戦略を強力に推進。その中で、母国・日本でのトップブランド『スーパードライ』の進化をどう図り、日・欧・豪・アジアの世界4極体制との相乗効果をどう上げていくかという課題。また、中長期視点で、『人の心を癒す』本業の進化をどう進めていくか─。

事業の成長・拡大はグローバル化で

 グローバル市場に新しい成長を求める──。アサヒグループホールディングスがグローバル戦略を強力に推し進めたのが2016年のこと。16年3月、社長に就任した小路明善氏は「ビール事業のグローバルでの成長には、どうしてもM&A(合併・買収)が不可欠」として、19年までの間に総額2兆4000億円のM&A投資を敢行。

 今から約5年前、小路氏はホールディングス社長に就任したとき、「事業拡大と事業価値の向上、これを継続的にしていくためには何をしたらいいのか」と熟考。

 選択肢は2つあった。

 1つは、多角化によって事業の定量的拡大を図るというやり方。もう1つは、中核事業のビール事業をグローバル化させることによって、事業の拡大を図ること。「端的に言ったら、事業の拡大はこの2つなんですね。わたしは後者を選びました」

 その決断の背景には、日本国内の人口減、少子化・高齢化という人口動態がある。ただ、グローバル化を進めるには、漫然と海外へ出ていっても、すぐ有力ブランドに押しつぶされる。競争の激しいグローバル市場で戦うには自分たちにも強みがなければならない。

 自分たちの強みとは何か? それは、自分たちが日本のトップブランド、『スーパードライ』を持っていることである。『スーパードライ』を世界の土俵に乗せてグローバル化を図ると同時に、M&Aではその国のトップブランドを持つメーカーを傘下に取り込むという戦略。

 2016年、世界最大のビールメーカー、AB inBev(アンハイザー・ブッシュ・インベブ、本拠はベルギー)から約1兆2000億円かけて買収した西欧や中・東欧のビールメーカーもトップブランドを持つ企業。イタリアの『ペローニ・ナストロ・アズーロ』しかり、チェコの『ピルスナー・ウルケル』しかりである。このM&Aは、先のインベブ(AB inBev)が英国のSABミラーを16年に買収する際、独占禁止法の絡みで、SABミラーの中・東欧事業を売却せざるを得なくなったという事情を背景にして成就。

 ともあれ、アサヒグループホールディングス(HD)は『スーパードライ』と『ピルスナー・ウルケル』『ペローニ』の3ブランドをグローバルプレミアムブランドとして、現在50〜60カ国・地域に販売している。インベブを相手のM&Aを通じて、小路氏は同社のCEO(最高経営責任者)、カルロス・ブリト氏と良好な関係を持つようになり、その後の豪州での拠点作りでもこの人的ネットワークを生かすことができた。

 豪州でのトップブランド・CUBの買収に名乗りをあげたのは19年のこと。以来、契約内容を詰めてきたが、20年6月、約1兆1000億円を投じて買収作業は完了。

「このとき、既存のわれわれの豪州でのビール事業をこのCUBに統合させることにしました」と小路氏は語る。

 この5年間でM&Aに投じた資金は約2兆4000億円。年間売上高(約2兆円)を上回る額であり、CEOの小路氏と同社経営陣の覚悟と決断、そして実行力なくしては実現できない一大投資である。

 小路氏はM&Aに当たって、4つの買収条件を挙げる。

 1つ目は、相手がトップブランドを持っていること。あるいはトップブランドに近いブランドを持っている事業であること。

 2つ目は、そのトップブランドから高い収益をあげていること。

 3つ目は、生産効率と醸造技術が高いこと。

 4つ目は、その事業を経営するトップが優秀な人材であること。この4つ目の条件は、M&Aのヒト(人)の資質、能力に関する重要な所で、アサヒグループのグローバル展開の基本にふれるもので小路氏も注視する。

 

本誌主幹・村田博文

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