「信託の柔軟性を発揮するための知恵を出していく」と話すのは、みずほ信託銀行社長の梅田圭氏。コロナ禍では本社を売却するなど生き残りのために不動産を活用する企業が多く、みずほ信託はその支援を続けてきた。だが今は、次の投資への資金確保、働き方改革など前向きに不動産を活用する企業も増えてきた。「過去経験した中でも、最もやるべきことが多い時期」と話す梅田氏の戦略とは。
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不動産を売却し事業投資に回す企業も
「今の円安基調の中で、我々企業は変えていける機会があるのではないか」と話すのは、みずほ信託銀行社長の梅田圭氏。
米国の金利引き上げやウクライナ戦争を受けて、経済・金融環境は混沌としている。特に、為替の円安を巡っては、産業界からもプラス・マイナスそれぞれの声が挙がる。
梅田氏の足元の為替の状況についての認識は「一様にポジティブでもないし、一様のネガティブでもない」というもの。みずほ信託の顧客でも、規模の大きい製造業で、輸出の多いところは円安が決算でプラスに効いている一方、原材料価格が高騰する中、価格転嫁ができていないところは厳しい。
ただ、中にはキヤノンのように、拠点を国内に回帰する企業も出てきており、「これは1つのチャンスではないか」と見る。
梅田氏が顧客と話をする中でも、全てを国内でということは難しいにしても、サプライチェーンの一部を国内に置こうという検討を進めるところが出てきているという。コロナ禍、ウクライナ戦争による物流の混乱、円安による海外生産のコスト増ということも背景にある。
「日本は国民の教育水準も高く、国内の中小企業の中に眠るノウハウなど潜在力もある。これらを円安を起点とする国内回帰の中で見直して、内需の力を溜める機会にする必要があるのではないか」(梅田氏)
日本経済はこの2年余、コロナ禍で苦しんできたが、2022年10月には「水際対策」も緩和。実際、梅田氏も出張に行く機会が増えたといい、関西方面に出かけた際には、京都に欧米の観光客が増えていることを実感したという。
さらには毎週のように海外の機関投資家、ファンドの幹部との面談が入るようになった。「日本銀行の政策変更に対するリスクは注視しながらも、彼らは日本の不動産への投資意欲がある。相対的な日本の魅力は減退していない」と話す。
不動産は、みずほ信託が業界の中でも最も強みを持つ分野。
コロナ禍当初は、財務を強化する観点で、本社や営業所を売却したり、継続して使用する物件を「不動産証券化」で、所有から賃借に切り替えることでバランスシート(貸借対照表)を落とすというニーズが強かったが、今は「そのニーズは一巡したと見ている」と梅田氏。
例えば、21年に大手広告代理店の電通が本社を譲渡および賃借(セール・アンド・リースバック)したが、これは決算対策というより、将来に向けた経営資源の分配、新規事業に向けた投資原資の確保といった色彩が強かった。
こうした前向きなニーズの他、東京証券取引所の市場再編や、コーポレートガバナンス、資本効率を重要視する株主の目線もあり、企業はROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)をこれまで以上に意識した経営をしている。その観点で不動産を売却し、それを事業投資に振り向けていくといった動きも出ている。
さらには、その企業の本業の先行きの見通しが厳しくなる中、本業を補完するために、所有する土地の用途を変えて開発するといった動きも出る。みずほ信託はコンサルティングをする中で、その企業に合った施策の提案をしている。