2022-11-15

ニッセイ基礎研究所・矢嶋康次氏の提言「今年は何か違う税制改正にしないと」

ここ数年の税制改正の評価の決まり文句は「効果は限定的」。今年の改正は違う評価になるのか注目だ。

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 政府は2015年度以降、法人実効税率を段階的に引き下げてきたが、企業が減税分を賃上げや設備投資に回す状況にはなっていない。

 今年議論される税制項目は、人への投資、脱炭素、自動車、NISA、ストックオプションなど。金融市場では、年末にまとまる予定の「資産所得倍増プラン」、その目玉であるNISAや金融所得課税に注目が集まっている。ただ、「投資対象」という意味では、日本企業や日本経済の復活ができる税制改正になるかがカギとなる。

「人への投資」はデジタル、脱炭素、スタートアップ、科学技術と並び、岸田政権の経済政策「新しい資本主義」の重点分野。人材投資では、欧米と10倍以上の開きがある。

 政府は、従業員のスキルアップ研修などの「学び直し」で、生産性向上に取り組む企業に減税を実施する予定だ。自民党・宮沢洋一税制調査会長は、今回の税制改正で「人への投資に大規模な減税をしたい」と述べる一方、「法人税を増やして、人への投資をやった企業に回す」と発言している。

 一律を大事にした税制からアメとムチの政策にシフトする。反発はあろうが、メリハリの効いた骨格が維持されることを期待したい。

 脱炭素は、ロシアのウクライナ侵略で、周辺環境が様変わりしたとは言え、政策の中心課題であることは変わらない。政府のイニシアチブのもと、2050年に向けたロードマップを前進させることが必須だが、その実現に向けた具体策の提示も待ったなしだ。これに自動車税も絡んでくる。脱炭素の最大の産業テーマが電気自動車(EV)戦略。海外では、EV普及の支援策やガソリン車の規制導入が相次ぐ中、日本はEV普及で出遅れている。

 今年は、自動車税・軽自動車税、エコカー減税(自動車重量税)と自動車関連税制の見直しが行われる。自動車税は「車体課税」と「燃料課税」の2つに大別されるが、ガソリンを必要としないEVが普及すれば、燃料課税の減収は避けられない。

 また、EVの自動車重量税は、エコカー減税で減免されるが、電池を搭載した分、EVはガソリン車より重く、道路への負担は大きくなる。いくつかの矛盾をどう整理するか。財政規模が大きいだけに、そのシフトは方々に影響を与えるだろう。

 なお、岸田政権は、物価高対策のガソリン補助金で、石油業界を支援している。EV支援とどう整合させるかもポイントになりそうだ。

 国際情勢が緊迫化する中、今年は防衛費増額の財源問題に焦点が当たる。例年のように「法人税減税の効果は限定的」となるくらいなら、最高益を上げる企業の法人税は防衛費に、という流れとなるのは必至だ。


ニッセイ基礎研究所
チーフエコノミスト
矢嶋康次

1968年生まれ。1992年東京工業大学卒業後、日本生命保険入社。95年ニッセイ基礎研究所入社。2017年より研究理事・チーフエコノミスト。著書『非伝統的金融政策の経済分析──資産価格からみた効果の検証』(共著・日本経済新聞出版社)などがある。

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