2022-11-10

「井の中の蛙では生き残れない!」 電動化に直面する【ホンダ・三部敏宏】の一喝

三部敏宏 ホンダ社長

「ソニーに飲み込まれる」とのOBの声もあるが、「この川を渡らねば…」という現経営陣の危機感─。米テスラなどが続々と電気自動車(EV)を展開する中、ホンダがソニーグループと折半出資するEV新会社の「ソニー・ホンダモビリティ」を発足させた。同社は既存の自動車メーカーとは全く異なる考え方で全く違うEVを開発する。ホンダの狙いとは?

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先端技術を取り入れた 高価格帯EV

「(EV発売後の)10年といった期間で見ればリカーリング(継続課金)が貢献する仕掛けになる」─。このように見通しを語るのはソニー・ホンダモビリティ会長兼CEOの水野泰秀氏(ホンダ専務執行役員)だ。

 9月末に設立された同社が果たす役割は大きい。ホンダにとっては自動車業界の産業秩序を大きく変える電動化に対応すると共に、その電動化が自動車業界のビジネスモデルを根本から覆す可能性が高いからだ。

 新会社は2025年前半に第1弾のEVの先行受注を開始すると表明した。先端技術を取り入れた高価格帯EVとし、クラウドシステムとつながって様々なサービスを提供。納入は26年春から北米で始め、日本は同年後半からを計画する。また、欧州での販売も検討する。

 新型EVは一定の条件下で運転操作が不要となる「レベル3」相当の自動運転機能を搭載する。この結果、運転者による運転への集中が軽減されることになり、利用者個人に合わせた車室環境を実現できる。例えばクラウド経由で映像や音楽、ゲームなどのコンテンツを提供する形だ。「モビリティ向けのエンタテインメントの新ジャンルを開拓したい」と社長兼COOの川西泉氏(ソニーグループ常務)は強調する。

 両社の組み合わせについて「会社の成り立ちや経営思想、新しいものづくりの展開など共通する点が多い」(アナリスト)と評価する声が上がる。実際、自動運転ではソニーが得意な「イメージセンサー」を用い、車内コンテンツもソニーのノウハウを活用できる。一方でホンダはクルマの生産という点で生産拠点やクルマに求められる安全性を提供することができる。

 ただ、ホンダ社長の三部敏宏氏の危機感は大きいようだ。ものづくりの競争力が問われてきたこれまでは、自動車メーカーが部品や素材などを手掛ける部品メーカーを従えるピラミッド型の産業構造で世界の競合他社と勝負ができた。しかしこれからは、これが通用しなくなる。

「〝井の中の蛙〟では生きていけない」─。昨今、三部氏は社内でこう発破をかけているという。自動車の電動化に伴ってクルマの付加価値はソフトに重きが置かれるようになる。水野氏も「高付加価値型の商品やサービスの提供、顧客との新しい関係構築にチャレンジし、ソフトウエア技術を中心としたモビリティテックカンパニーを目指す」と方針を示すのはそのため。それだけ危機感は大きい。

 自動車業界では「鉄の塊からソフトウエアの塊になる」という声がよく聞かれる。実際、独フォルクスワーゲンは自動車の市場規模は現在の約260兆円から30年には約650兆円へと拡大するが、そのうちソフトウエアとサービスが約156兆円を占めると予測している。

 これはホンダのみならず、他の自動車メーカーにとっても収益構造がガラリと変貌することを意味する。そこでソニーと手を組むことのメリットが出てくる。車両生産や部品調達はホンダの既存の供給網で対応することはできるが、「ソフトウエアでは、ほとんどノウハウはない」(関係者)からだ。
 

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