2021-01-25

創業130周年のクボタ・北尾裕一社長が目指す「命を守るプラットフォーマー」とは?

北尾裕一・クボタ社長


老朽化した上下水道が更新時期を迎えて


 ─ 農業以外の分野でも応用ができますか。

 北尾 我々の祖業である鉄管は上下水道などに活用されており、「パイプシステム事業」として展開しています。

 例えば日本の上水道は約6割弱がクボタの鉄管を活用しています。従来は管を入れるだけでしたが、今後は上流に監視モニターを設置し、水流、水質、水位をセンサーで感知するようなシステムを自治体などのお客様に提案していくことになります。これを「クボタスマートインフラストラクチャシステム」(KSIS)と呼んでいます。

 ─ 上下水道の老朽化が言われています。

 北尾 今後、更新需要が出てきますが、どの部分がどれだけ老朽化しているかを、地上からAI(人工知能)やセンサーを使って診断ができるようになっていきます。

 トータルのシステムを使って、いかに社会インフラのメンテナンスコストを下げていくかが、これからの時代に求められています。

 また、地方自治体の中には財源や人手に余裕のないところもあり、上下水道などソーシャルビジネスの維持が難しくなる可能性があります。そこに我々が浄水場、下水処理場、管路のデザインからオペレーション、メンテナンスなど一気通貫で提案できるように、社内で部署を立ち上げて取り組んでいます。

 今、当社には機械事業本部と水環境事業本部という大きく2つの事業部がありますが、将来は一つに束ねていくことが目標です。日本は農業にも、インフラシステムにも課題を抱えていますが、これをどう解決していくか。同時に地球全体として持続可能な社会づくりをしていくための課題もあります。

 クボタは農業機械や建設機械、インフラ関連を手掛けていますから、社会課題の解決にDXでトータルにお応えできる会社になれるといいなと考えています。

 ─ 先行き不透明な中ですが、自分達の方向性を見据えているということですね。創業130年ですが、社会インフラを支える使命をどう考えますか。

 北尾 その使命は絶対に変わりません。今、社内に「命を支えるプラットフォーマーになろう」と言っています。「GAFA」などITプラットフォーマーは〝上空〟を制していますが、我々は地表と地下を制する存在になりたいと思っています。

クボタの仕事は「泥まみれ」の中から


 ─ ところで北尾さんは米国に合計5年駐在した経験があるそうですが、学んだことは?

 北尾 最初の赴任の際には全米36州で200カ所ほど現地のディーラーさんを回って、そこから得たものを次の開発にフィードバックするという仕事をしていました。

 現地にKTC(Kubota Tractor Corporation)という会社があるのですが、お客様の声をよく聞き、それにレスポンスをし、お客様のためにビジネスをするという「Listen to the Dealer」が社是となっています。私自身、お客様であるディーラーさんがどういうビジネスをしているかということが身に染みてわかりました。

 2度目はKTCの社長として赴任しましたが、ディーラーさんに利益を上げてもらい、それによって我々も利益をいただくということを常に意識してきました。ディーラーさんは我々が小さい会社の時からクボタブランドを本当に愛してくれている。ブランド力とは何かを理解できた気がします。

 ─ やはり「人」の気持ちはビジネスでも大事ですね。

 北尾 ええ。そこで今、私は社内でスローガンとして「One Kubota」と「On Your Side」という言葉を伝えています。「On Your Side」には社会課題を発見して解決し、お客様のビジネスを成功させる、という意味合いを持たせています。その気持ちを持っていることがビジネスの成功につながると思います。

 ─ 大学では船舶工学を学んだそうですが、クボタを志望した理由は何でしたか。

 北尾 当時はオイルショックもあり、造船会社の採用がゼロでした。困っていたところ仲のいい友人の祖父がクボタで働いていて「いい会社がある」と教えてくれたのがきっかけで志望しました。

 ─ 人のつながりの中での就職だったと。最初の配属は?

 北尾 トラクターの開発部門に配属になり、最後はトラクター技術部長まで務めました。常に一番上のクラスの出力の機械の開発に携わっていたんです。市場がない状態で出しますから売るのが難しい機械でしたが、出すと下の出力の機械が売れる効果があり、「我々はフラッグシップをつくっている」と自分たちを納得させる日々でした。

 開発の中で失敗もありましたが、上司やチームの仲間、他のチームやサプライヤーさんにまで助けてもらい、チームワークの重要性を実感しました。

 クボタの仕事は土壌の世界、「泥まみれ」でスマートではありません。私自身、入社2年目に北海道中標津の農場で1カ月間、泊まり込みで実習に行ったことがあります。

 朝の5時から牛の世話をする生活でしたが、泥にまみれる中で解決のための発想が生まれ、農業機械はどうあるべきかを体感しました。

 我々の相手は土や泥、作物など自然です。その中から生まれてきたのがクボタの文化だと思っています。

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