2021-01-25

創業130周年のクボタ・北尾裕一社長が目指す「命を守るプラットフォーマー」とは?

北尾裕一・クボタ社長

きたお・ゆういち
1956年7月兵庫県生まれ。79年東京大学工学部卒業後、久保田鉄工(現・クボタ)入社。2009年執行役員、13年常務執行役員、14年取締役常務執行役員、15年取締役専務執行役員、19年代表取締役副社長執行役員、20年1月代表取締役社長に就任

「我々は農業やインフラにITを活用て社会課題を解決する存在でありたい」─北尾氏は社会インフラを手掛ける企業としての使命感を語る。創業130年を迎えたクボタ。農業従事者の高齢化・離農により販売農家が減少する農業、老朽化が進む上下水道などの社会インフラは、解決すべき課題が多い。ここにAIなどITを活用したプラットフォームを構築する考え。「上空はGAFAが制しているが、地表・地下は我々が制したい」と話す北尾氏が描く将来像とは─。(2020年7月取材)

持続可能な社会へ、何ができるかを考えて


 ─ 北尾さんの社長就任から半年ちょっと経ちましたが、その間、新型コロナウイルス感染拡大で世界及び日本経済は悪影響を受けています。今後のスタンスを聞かせてください。

 北尾 経済的ダメージで言えば、フローが傷んでいる一方、ストックは全く傷んでいません。銀行さんなど金融機関もそうですし、我々メーカーも設備が壊れたわけではありません。決して効率だけではなくなると感じており、それに対してクボタが何をできるかを一生懸命考えて、動いているところです。

 ─ 社会から求められる事業に取り組んでいるのだと。

 北尾 ええ。コロナ禍の中で、我々も工場が止まり、売り上げも利益も減ったわけですが、日本、北米、欧州、アジアそれぞれの拠点で従業員が使命と責任感を持って事業を継続してくれ 確かに、一時的に大変な業界もありますが、政府の経済対策も含めて何とか耐えていけば、ある程度回復していくのではないかと思います。今は勝負どころではないかと見ています。

 ─ クボタは日本のみならず世界で、食糧生産と結びつく農業機械を手掛けていますが、インフラ中のインフラですね。

 北尾 そうですね。農業機械、小型の建設機械、国内を中心とした水環境事業など、あまり目に見えない部分で社会を支えているという思いで取り組んでいますが、事業は脈々とつながっていくだろうと思っています。

 ただ、新型コロナによって、次の時代の変革が早くやってきたと感じています。仕事でも普段の生活でも、何が大事で、何が不要不急かが見えてきたのではないかと。その中で、様々な面で選別、新旧交代も起きてくるでしょう。

 我々は今年創業130年ですが、先輩方から脈々と引き継いだ事業をさせてもらっているのはありがたいですし、これからも続いていきます。ただ、おそらくやり方が変わります。

 昨今言われるIT、デジタルトランスフォーメーション(DX)などで社会や仕事のやり方が変わるでしょうし、コロナによって社会の目はSDGs(持続可能な開発目標)、ESG(環境・社会・ガバナンス)に向いてくると思います。

 今までグローバリゼーションというと、いかに効率よくビジネスをするかで動いてきたと思いますが、今後はそれだけではなく、いかに持続可能な社会に向けて取り組むことができるか、決して効率だけではなくなると感じており、それに対してクボタが何をできるかを一生懸命考えて、動いているところです。

 ─ 社会から求められる事業に取り組んでいるのだと。

 北尾 ええ。コロナ禍の中で、我々も工場が止まり、売り上げも利益も減ったわけですが、日本、北米、欧州、アジアそれぞれの拠点で従業員が使命と責任感を持って事業を継続してくれていることには、本当に頭が下がる思いです。彼らが我々クボタグループのビジネスを支えてくれていることを、今回私自身が改めて実感しました。

 例えば3月、4月は我々の機械を販売してくれている北米のディーラーさんの売り上げがゼロになるくらいでしたが、5月、6月になると北米の小売りは前年対比で2桁以上の伸びになったんです。農業機械では北米の富裕層の需要が強く、建設機械では公共工事が底固かった。

 また、中国も3月後半から無錫と蘇州にある工場の稼働を再開し、5月以降は売り上げが前年を超えました。政府が経済対策に力を入れていることもあり、特に建設機械が活況です。建機自体に加え、我々はエンジンも手掛けていますが、そこも伸びています。その意味で、やはり社会に必要とされるビジネスをやっているんだなと実感します。

 ─ 今、クボタは世界120カ国以上でビジネスを展開し、売り上げの7割が海外ですね。

 北尾 ええ。世界を主体に事業を展開し、日本が3分の1、北米が3分の1、欧州が10%、アジアが20%という比率です。

農業の「見える化」にITを活用


 ─ 先程、DXへの言及もありましたが、今後どのような形で事業を進めていきますか。

 北尾 社内では、従来のような機器売りでは駄目で、今後はトータルソリューションの提供が必要だと言っています。

 過去を振り返ると、我々は鋳物から始まって鉄管をつくり、農業機械でグローバルに展開してきました。120カ国以上で事業を展開し、時々の機械化ニーズに応じて、製品を世に送り出してきました。これまでは製品主体だったわけです。

 しかし、これからの時代は全体のシステムがつながったトータルソリューションの提案を、お客様にしていかなければいけません。しかも、コロナでその速度が前倒しになっています。

 例えば農業でも、兼業農家などが減少する中、残る担い手さん達で日本の分散した農地・畑地を管理していかなければいけません。今までは1軒1軒の農家さんが経験とノウハウでやっていましたが、後に続く若い人がやるには「見える化」をしなければならないわけです。

 ─ そこにソリューションを提供していくと。

 北尾 そうです。農業の「見える化」にはITを活用してシステム化していく必要があります。我々は営農支援システム「クボタスマートアグリシステム」(KSAS)を開発していますが、データで農業ができるようにしていくということです。

 資材の調達、播種、田植えなど全体の作業をデータで見える化し、それに応じて機械の自動運転化も進めています。

 また、例えば我々のコンバインは米を収穫した際、同時にタンパク質や水分をセンサーで計測できます。これによって収穫量や味を知ることができ、それを元に翌年の施肥計画を立てることができるわけです。

 さらに農家さんはレストランなど販売先とつながりたいという思いがあります。KSASでは生産地と消費地の結びつきも構築していきたい。これは1社だけではできませんから、社内に「イノベーションセンター」を設置し、他社とタッグを組んで取り組むことができるような仕組みづくりを進めています。

 農業全体のシステム、プラットフォームをつくり、農家の方々の収入を増やす手助けをするなど、農業に貢献したいと考えています。

 ─ プラットフォーム化で農業の生産性が上がると。

 北尾 ええ。例えば海外市場を見た時に、日本の農産物の弱みは値段が高いことです。これは安全と美味しさではカバーできません。

 我々は米の輸出では国内トップシェアです。シンガポールと香港にライスセンターを持って、輸出した玄米を現地で精米し、レストランなど店舗に卸しているんです。

 美味しいのでトップ層と、そこに近い層の日本食レストランには売れていますが、大きな市場はタイ米やカリフォルニア米に取られていますから、やはり値段は課題です。

 今、当社は1俵約9000円で出していますが、これを6000円にしようと言っています。そのために農機を自動化し、KSASで美味しく、収量が上がる米づくりを進めることが大事です。今、新潟では7000円を切る目途が立ちました。美味しさと、システム化、農業機械の自動化などによるコスト削減の両面を追求していきます。

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