2021-01-25

大和証券グループ本社・中田誠司社長「SDGsなど社会課題解決に投資する商品づくりを」


コロナ禍でデジタル活用をさらに加速して


 ── リアルとデジタル、バーチャルの融合が一つのテーマかと思いますが、中田さんはどういう考えを持っていますか。

 中田 職種によってはバーチャルで事足りてしまうのかもしれませんが、人間あっての社会です。今、DX(デジタルトランスフォーメーション)が言われていますが、あくまでもメインフレームはリアルで、DXが補完的に作用して、生産性を上げていくことになると思います。

 ── リアルとデジタルをどう融合させていますか。

 中田 我々は五輪を睨んで2年半前から基幹システムを、パブリッククラウドに移し、リモートで全ての業務が行えるように切り換えており、昨年末には「2in1」のタブレット端末を全営業員に配布し終えました。

 また、支店のミドル・バックオフィス業務も以前は手と紙でやっていた部分が多かったのですが、このデジタル化も少しずつ進めていました。コロナによって、これらの取り組みをさらに加速させ、生産性を上げていくことが必要です。

 ── 営業面ではコロナで対面が難しい状況ですが、どう進めていきますか。

 中田 第1四半期の緊急事態宣言下では、弊社も国の方針に沿って3割出社体制に抑えました。その後、宣言解除とともに、お客様の同意が得られればリアルでの対面も行っています。

 デジタル活用で今まで100できていた仕事が、コロナ禍でも100できるということで社内が少し満足している面もありますが、リアルとデジタルを組み合わせて、100だったものをどうしたら100以上にできるか。こういうところに踏み出し始めています。

 各地域行政からの要請があれば別ですが、在宅比率の指示などは全社では出しておらず、部署、個人の判断で、ベストな組み合わせを考えて取り組んで欲しいと社内には伝えています。

 ── コロナで、改めてリアルの重要性を多くの人が実感したように思うのですが。

 中田 そう思います。人は五感があり、リアルでしか感じ取れない第六感も働かせて、トータルでビジネスをしたり、コミュニケーションをしています。

 私も、オンラインでのミーティングは今も続けていますし、いわゆる「オンライン飲み会」もやりました。それはそれで必要最低限のことは足りるのですが、顔色を見るといった第六感を働かせるようなことは、オンラインではできませんよね。

 もちろん、オンラインで事足りるような会議も多数発見されましたから、今後も継続することで効率性は高まりますが、本当にリアルでやらなければならないものは、状況が許せばリアルでしっかりとやっていくべきだと思います。

 ── 関連して、今後の営業店舗のあり方はどうなりますか。

 中田 これもコロナ前から見直しを進めてきました。証券会社は、駅前に大きな店頭スペースがあるというのが基本的パターンでした。

 しかし、証券会社の店舗に来られるお客様は何らかの目的を持って来られるわけですから、来店された時に相談できる個室のブースがあればいいわけです。昔は証券会社の店頭に人が集まり、株価ボードを見ながらワイワイやっていましたが、そういう時代ではありません。

 1階の店頭スペースをなくして、空中店舗化しています。しかも、それは駅前一等地の1階、目抜き通りである必要はありません。少し離れても、大和証券があるということが、ご利用されるお客様にわかればいいのです。ダウンサイジング化も一気に進みます。114支店のうち80カ店ほどで空中店舗化、ダウンサイジング化を行っています。

 また、先程のミドル・バックのデジタル化で、その要員も必要なくなります。支店は営業員とお客様がお越しになった時のスペースがあればいい。これがまさに営業所で、これを増やしてきました。

 コロナを経てもこの戦略は変わらず、逆にさらに加速させるべきだと思います。

残高を管理して手数料を得るモデルに


 ── コロナ禍では個人の証券口座開設が増加しましたが、ネット証券会社が手数料無料化にカジを切っています。この手数料の考え方は?

 中田 私の持論ですが、手数料ゼロというのは究極的にはビジネスではありません。手数料はサービスに対する正当な対価だと思います。

 過去、反省があるとすれば、サービスの対価よりも多い手数料をいただいてしまったケースもあっただろうということです。今後はしっかりとしたサービスを提供することによって正々堂々と、正当な手数料をお客様から頂戴する。これがビジネスだと思います。

 今、手数料競争の中でゼロという数字が踊り、株式の売買手数料がゼロという状態になっていますが、単なる売買の手数料の差異で差別化しようとは全く考えていません。

 それよりも、証券会社は株式、投資信託を売買するブローカレッジ手数料を収益のメインとしていたものから、徐々に資産全体を管理することでフィーをいただく形に変わっていっています。

 将来的には相当程度の収益が、資産を管理することによって頂戴するコンサルティングフィーに変わっていくと思います。

 ── すでにそうした取り組みが始まっていると。

 中田 ええ。当社では20年10月19 日から、投資信託の購入時にお支払いただく購入時手数料を無料とする代わりに、ご購入された投資信託の評価額合計及び保有期間に応じて残高フィーをお支払いいただく新しい手数料プラン「投信フレックスプラン」を始めています。

 投信は通常、購入時に手数料をお支払いいただくのですが、今は例えばテーマ型の投信や、米国株を組み入れた投信は値動きが激しいので、売ってまた次の投信を購入する人も多いのです。しかし、それでは購入のたびに手数料をお支払いいただく必要があります。

 それが投信フレックスプランでは、何回売買しても手数料は一切いただきません。その代わり、半年に一度、投信残高に応じてコンサルフィーをいただくという商品です。

 今は投信という単品商品でコンサルティングフィーをいただくタイプの商品を用意しましたが、将来的に株式や債券など、全ての資産で年間のコンサルティングフィーをいただくモデルに変わっていくのではないでしょうか。

 ── 新しい手数料モデルに手応えがあるということですね。

 中田 あります。我々が想定した以上に、お客様からの評判がいいんです。一方、投信フレックスプランの説明を聞かれた上で、通常の手数料をお支払いいただいて投信を購入する方もいます。お客様にとって選択肢が増えたということです。

 ── 国民の間に資産形成のニーズがあるということだと思いますが、改めて「貯蓄から資産形成へ」をどう進めますか。

 中田 「貯蓄から資産形成へ」と言われて久しいですが、まだその方向に流れが向かっていません。ただ、今回「巣ごもり」で当社を含め、個人の証券口座開設が増えました。この機会に投資を考えようという方が増えたのも事実です。

 また社会現象として、コロナ禍によって、SDGsなどの社会課題に対する関心も高まりました。実際、ESG(環境・社会・ガバナンス)に投資するETF(上場投資信託)への資金流入が加速しています。投資して利益を上げるだけでなく、社会課題解決に役立てるという方向にも、個人投資家の目が向いているのだと思います。

「貯蓄から資産形成へ」だけでなく、例えば「貯蓄からSDGsへ」というコンセプトで、社会課題に投資する商品づくりをすることで、投資を呼び込む活動も進めたいと考えています。

 ── 厳しい状況下、社内にはどう呼びかけていますか。

 中田 誤解を恐れず申し上げると、証券業は資本市場という場を提供する「エッセンシャル」(必要不可欠)な仕事です。扱っている商品はコロナで間接的に影響を受けていますが、直接的には影響を受けていません。このことを、本当にありがたいことだと思おうと、仕事ができる場があることに感謝し、やりがいを感じながら働いて欲しい、と話しています。

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