健康意識を高めるため少年期での教育を
── 大正製薬ホールディングス社長の上原明さん、市販薬業界の21年の見通しは?
上原 20年はインバウンド需要が減少し、市場に5%程度のマイナス影響を与えましたが、消毒液やうがい薬などが伸びたことで相殺された部分もありました。21年度も基本的には同じ方向だと思います。
── 大正製薬は〝セルフメディケーション〟という新しい生き方を提案してきましたね。
上原 はい。社会保障費が国の予算の33%を占め、医療費、年金、介護が3分の1ずつ占めています。さらに、高齢化が進むほど医療費が増え、最近は1億円や数千万円という高額な薬剤も登場しています。
そうなると、自助・共助・公助でいうと、公助でカバーしながら共助をやり、それ以外の軽い病気や予防はできるだけ自助でやっていく必要があります。日本人の健康リテラシーが、全てお医者様におんぶに抱っこということも問題だと思います。つまり、何かあると、すぐお医者様のところに行ってしまう。けれども健康寿命を実現するには、まず自分で自分の健康を守るという気持ちと、そのための知識が必要です。
その健康知識を身に付けるために、今、文部科学省にお願いしようと考えていることは学校での教育です。今の市場では、初めにモノがあるので、世の中全般が〝モノよりの情報発信〟になっています。ところが、必要なのは、生活者の成長状態に対応した情報であり、そこにプラスしてモノがあるということを、中学や高校でしっかり伝えていくことが極めて大切であると考えています。
── 健康のために必要な情報とは、どんな情報ですか。
上原 人間の身体は少年時代、青年時代、壮年時代、老年時代と、生理状態は時代によって身体の発育が変わっていきます。ところが、今はまだモノ主体の社会なので、少年時代と老年時代でも同じ商品が服用量に関する情報と共に提供されています。
例えば、14歳の男の子と女の子の生理はこうなので、そのために必要な栄養や運動はこうですよ、と教えることが大切です。壮年、老齢によっても必要なものが変わっていきますが、自分の生理状態に関心の高い少年少女の時期に教えることで、健康知識も身に付いていくと思います。
それから自助の意識を高めるためにもう一つ大切なのは、セルフメディケーション税制などの優遇策です。国民の意識や行動を変えるには時間がかかるので、短期には税制、中期には市販薬の育成政策、長期には生活者の教育の三つをお願いしたいと思っています。
私はいま79歳で21年は80歳になりますが、まだまだやる気があります。健康寿命は精神的な寿命だと思いますので、21年も精力的に活動していきます。