企業側の大学に対する期待が10倍になった
―― 染谷さんが工学部長になって2年半が経ちますが、この間の手応えをどのように考えていますか。
染谷 この数年で、大学に対する期待がどんどん高まっていると感じます。大学にとって、今も基礎研究は大変重要ですが、従来のように、基礎研究だけをしていればいいというのではなく、基礎研究で得た知恵を活かして社会課題の解決に貢献してほしい、という期待が高まっています。
一方、企業が解決に取り組んでいる課題も、どんどん地球規模で複雑になり、難しくなっています。ちょうど、わたしが研究科長になった時期というのは、新型コロナウイルス感染症が広がってきた頃で、世界的に半導体不足が起こったり、今年に入るとロシアによるウクライナ侵攻が起こって、いろいろなエネルギーや食糧の価格が上がったりしているわけですね。
しかも、変化のスピードが激しく、内部の技術や知見だけでは対処できずに企業が困っていると。その中で、大学が貢献できる部分とできない部分はあるにせよ、解決に向けて大学が持っている無形の知的資産を活かそうという期待が高まっているのだと思います。
―― 大学と連携したいと考える企業が増えていると。
染谷 そういうことだと思います。わたしの前任者である大久保達也(現東京大学理事・副学長)さんが社会連携を強化し、産業界との連携にアクセルを踏み始めました。
わたしはそのアクセルを更に強く踏み込みました。東京大学には社会連携講座といって、企業と一緒に行う大型研究の仕組みがありますが、それを金額ベースで10倍にしましょうという無謀な計画を立てているんですが(笑)、前任者の時代と合わせた6年で本当に10倍になる勢いです。