2021-01-20

【ずいひつ:劇団四季・吉田智誉樹社長】「浅利慶太が遺した『演劇』をこれからも引き継いでいく」

コロナ禍は演劇業界に甚大な影響を与えています。四季でも2月末から7月13日までで計1103公演が中止に。年間では現状で1600公演以上が中止を余儀なくされました。

 コロナの感染が広がりつつあった3月から5月にかけては、最も苦しい時期が続きました。何もかもが未知数。進むべき道が見えずに不安になっていた所、ある先輩の経営者から、「先ずは、組織の存続が脅かされる最悪のラインを見極めること。次に、どうしたらそれを下回らずに済むかを考える。そうすれば、やるべきことが自ずと見えてくる」というアドバイスをいただきました。

 全くその通りだと思い、今でもその助言の通りに行動しています。劇団のメンバーにも、明らかになった存続のボーダーラインを具体的に伝えました。ただ、実際に会って話すことはできないので、1400人の俳優、技術や経営スタッフ全員に私自身が話している動画を配信しました。

 緊急事態宣言の期間中、再開がいつになるかわからず、ステイホームが続く日々の中で、一番不安を抱えていたのは間違いなく俳優たちでしょう。経営や技術のスタッフは在宅でも仕事ができますが、俳優たちは自宅で自己研鑽に励むしかない。また、舞台が無くなるということは、自分たちの生きる糧を失うことにもなります。

 そんな逆境の中でも、俳優たちはポジティヴでした。むしろ、自分たちが今できることを考え、前向きなアイデアを多く提案してくれたのです。その中で実現したのが、オリジナルミュージカルの曲を大勢で合唱したテレワーク動画でした。

 これは劇団創立者の浅利慶太が言っていたことですが、「ダンサーは、レッスンを1日休むと自分にわかる、2日休むと相手役にわかる、そして3日休むとお客様にわかる」と。そうならないよう、オンラインでのレッスンも導入しました。またこの期間、公演はありませんでしたが、俳優たちに一定の報酬を支払い続けました。

 偶然にも67回目の創立記念日だった7月14日から公演を再開することができました。そして、10月にはJR東日本四季劇場[秋]が開場。マスク着用のお願いや、舞台前から距離を取った席位置での販売など、感染防止策を徹底してお客様をお迎えしています。

 2021年1月にはJR東日本四季劇場[春]、9月には有明四季劇場の開場も予定されています。劇場に安心してお越しいただけるよう、引き続き努力していきます。

 演劇は紀元数世紀前から存在し、現在まで生き残ってきた「しぶとい芸術」です。戦禍や悪疫の流行があっても、演劇はなくならなかった。演劇の魅力の源泉は「同時性」と「一回性」にあります。人同士が直接相対し、同じ空気の中で感情を交流させる「同時性」と、全く同じ舞台は二度とないという「一回性」です。この力は唯一無二のもので、途轍もなく強いと思うのです。

 また今のところ、演劇のこの魅力を完全に代替する技術はないと私は思います。映像やweb技術などの様々な方法が模索されていますが、現時点で存在するどんな技術も、「同時性」と「一回性」の中で輝く、生の舞台の感動を伝えきれてはいない。

 だから私たちは、あくまでも、生の演劇を中心に据えた活動を続けていきたい。そのためには俳優をはじめとした、演劇を担う芸術家たちを失うわけにはいきません。彼らと手を携え、コロナ禍の収束まで何としても生き残り、劇場が以前の輝きを取り戻す日を取り戻したいと思っています。

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