2021-01-17

【経済の本質を衝く!】河野龍太郎・BNPパリバ証券チーフエコノミスト「株高は世界経済の健全な回復を示唆するのか」

世界的に株高が続いている。金融市場は有効なワクチンの早期普及で、世界経済が健全な回復経路に向かうことを先読みしているのだろうか。

 過去四半世紀、米国では、イノベーションが続いても、その果実はアイデアや資本の出し手である富裕層に集中してきた。平均的な労働者の所得はほとんど増えていない。富裕層の消費性向は低いため、一国全体では貯蓄ばかりが増える。貯蓄と投資のバランスが崩れ、潜在成長率や経済を均衡させる自然利子率も低迷が続く。これが、金融政策の有効性が低下している理由だ。

 大統領選挙でバイデン次期大統領は経済格差是正のために、富裕層増税や法人税増税を掲げていた。しかし、上院は共和党が握る可能性が高い。特に税制改革は議会の専権事項であり、分裂政府になると、激しい党派対立の下で、推進が難しくなる。

 今回のコロナ危機で、米国の多くの大企業は、テレワークに移行した。経営者が認識し始めたのは、オフィスに集まらなくて良いのなら、人件費の高い米国人のホワイトカラーを雇う必要がないということだ。早晩、新興国のホワイトカラーでの代替が進むだろう。それは、製造業の生産拠点の海外移転がもたらした以上の影響をもたらすはずだ。中間層はさらに痩せ細り、益々、富裕層に所得が集中する。エリート政治への反発から、トランプ大統領が去っても、トランピズム運動は一段と強まり、民主党では左派勢力が力を増す。早晩、バイデン次期大統領は身動きが取れなくなるだろう。

 FRBはゼロ金利の長期化で完全雇用を目指し、平均的な労働者の賃金の上昇を目指そうとするのだろうが、金融政策は分配政策の代わりにはならない。結局、ゼロ金利の長期化は、株価ばかりを押し上げ、経済格差を助長する。大統領選挙直後から株高が続くのは、歪んだ所得分配構造とゼロ金利の継続を先読みしているからではないのか。

 近年、富裕層の貯蓄は、金融市場を通じて、低・中所得者の借り入れにつながり、消費に回ってきた。FRBがわずかに利上げを行うと、その途端に個人消費が失速するのは、過剰債務を抱えた低・中所得者が利払い負担で、支出を抑制せざるを得ないためだ。2000年代末には、サブプライムローンで過剰債務を抱えた低・中所得者が返済不能となり、政府が公的資金を投入して、肩代わりした。

 ゼロ金利の継続でFRBが目指すのは、人的資本投資や無形資本投資を刺激し、自然利子率や潜在成長率の回復で、インフレを2%超まで引き上げることだ。しかし、現実に起こるのは、実体経済とかい離した株高と共に、低・中所得者や政府が富裕層の貯蓄を吸収する形で、債務を膨らませることではないか。今後、景気回復が始まっても、大きな不均衡を孕むものとなる。

 世界的な株高は、必ずしも経済が健全な回復に向かうことを意味するわけではない。

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