2021-01-13

日本商工会議所・三村明夫会頭「中小企業の生産性向上のためにも大企業との取引価格適正化は必須」

三村明夫・日本商工会議所会頭

「感染者数の上下はあると思うが、感染拡大防止と経済活動の両立はぜひお願いしたい」──三村氏はこう訴える。コロナ禍で多くの中小企業の経営が厳しい状態に置かれている。政府の支援や自助努力で何とか持ちこたえているだけに、「経済の先行きが少しずつでも上向いているという実感が何よりの経済対策」。その中で政府では最低賃金引き上げの議論が進む。その前提として必要なこととは──。(2020年11月取材)

ギリギリの状況下雇用を維持する中小企業


 ── 2020年はコロナ禍で、特に中小企業の経営が厳しい環境に置かれました。現時点までをどう総括しますか。

 三村 今回、大企業もそうですが、中小企業の対応で特徴的なのは、従業員をほとんど解雇しなかったことです。9月にアンケート調査したところ、従業員の人員整理を実施・検討した企業は4・3%しかありませんでした。それ以外の企業は休業を増やして雇用調整助成金を受け取る、新規採用を抑制するなど、様々な形で雇用に手を付けずに、ギリギリ頑張っているという状況です。

 ── トータルの失業者は増えず、休業が増えた形ですね。

 三村 ええ。休業者は緊急事態宣言下で一時的に約600万人まで増えましたが、足元で200万人を切るところまで急速に減少しました。最悪期を休業で乗り切って、雇用には手を付けずにきたのです。

 なぜ、雇用に手をつけないでこられたのか。理由の1つは、過去5年間の人手不足で、人が手当できなかった苦労を知っているからです。

 当初(2015年)は50%ほどの企業が人手不足で悩んでおり、コロナ前までで、その割合は約65%を超えるまで高まっていました。今回、新型コロナが終息した後には、多くの企業が再び人手不足の状況が来ると思っていますから、雇用には手を付けたくないのです。

 もう1つは、中小企業の経営者にとって、従業員はいわば家族のようなものです。自分達が事業を続けている限り、従業員はリテイン(保持)したいという思いがあります。

 さらにもう1つは政府の支援策です。特に雇用調整助成金は、特例措置により1人当たりの上限額を日額1万5000円まで増やしてもらいましたが、これが大きな助けになったことは確かです。

 これら3つの要因で、業績が悪化する中でも最大限、解雇を回避し、日本全体の失業率も3%台と低く、倒産・廃業も今のところ少ない。政府の支援もありますが、諸外国に比べるとギリギリの線で社会経済活動を維持している。これは1つの成果だと思います。

感染拡大防止と経済活動の両立を!


 ── ここまでは持ちこたえてきたわけですが、足元で懸念材料は?

 三村 今、最も心配しているのはコロナの第3波の影響です。中小企業にとって一番大きな救いは、経済活動が少しずつでも上向いているという実感です。ギリギリの状況で耐え忍んでいる事業者にとっては、これが最も大きな経済対策です。

 確かに感染者数の波の上下はあるかもしれませんが、どんなことがあっても感染拡大防止と経済活動の両立の維持を、何とかお願いしたいのです。

 そのためにも検査体制と医療提供体制の充実は絶対に必要です。経済活動を活発にすればどうしても感染者数は増えます。しかしこれらが充実していれば、例えば再度の緊急事態宣言のような非常に強い措置を取らなくても済むと強く思っています。

 ── 21年、中小企業に求められることは何だと考えますか。

 三村 一律にみんなを援助するという段階から、中小企業の体質強化を図りつつ、コロナ禍を契機として自らを変革しようとする企業を応援するステージに同時並行的に移行していくことが必要です。

 デジタル化はもとより、業態転換、新製品・サービスの開発、事業承継、EC等を活用した国内外への販路開拓といった自ら行う企業変革への支援です。コロナに打ち勝った後は、今までと同じ世界ではありませんから、企業はそこを見据えて自ら変わらなければなりませ
ん。環境変化に対して、柔軟に素早く対応できる中小企業の強みを発揮すべきです。

 中小企業は、いつまでも「助けて欲しい」と政府の支援を期待するだけではなく、この難しい時代をどう生き残るか、いかに自分の会社を変えていくかということを自らが真剣に考えなければなりません。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事