2022-05-28

「『新しい資本主義』は多面的、複眼的に考察すべき」大和総研チーフエコノミストの訴え

岸田政権の看板政策である「新しい資本主義」は、様々な時間軸に照らして、多面的、複眼的に考察することが肝要である。

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 第一の時間軸は、ここ20~30年間程度の日本経済の動向だ。日本経済が抱える問題点を整理すると、①成長の不足(=企業の稼ぐ力が弱いこと)、②交易条件の悪化(=輸出品価格の低迷と輸入品価格の上昇)による海外への所得流出、③社会保険料の増加に伴う可処分所得の伸び悩み、④若年層を中心とする将来不安に起因する消費の低迷、⑤企業部門内での資金の滞留(=投資の低迷)、の5つが指摘できる。われわれは、アベノミクスを進化させて、これらの5つの問題点を解決する処方箋を考える必要がある。

 第二の時間軸は、過去数百年間にわたる、グローバルな資本主義の歴史である。世界大恐慌の教訓から生まれたケインズ経済学や、20世紀半ばの福祉国家に向けた取り組みは、1970年代以降のインフレ進行を受け影響力を失う。

 1980年代以降は新自由主義が勢いを増し、2000年代に入り、株主の短期的な利益だけを過度に重視する「グローバル資本主義」が隆盛を迎えた。しかし、今後は、より中長期的に持続可能性が高い、様々な利害関係者にバランス良く目配りした「ステークホルダー資本主義」が主流になるとみられる。

 第三の時間軸は、過去数万~数十万年にも及ぶ、人類の歴史である。まず、5万年位前に「心のビッグバン」といわれる現象が起きた。例えば、ラスコーの洞窟壁画や縄文土器に代表される装飾品、芸術品が作られた。さらに、紀元前5世紀前後に「精神革命」と称される現象が起こった。世界各地で仏教、ユダヤ教、ギリシア哲学といった、普遍的な宗教や思想などが生まれたのだ。この二つの現象に共通するポイントとして、前者では狩猟採集社会が、後者では農耕社会がある種の定常状態、飽和状態に至ったことで、人類に新たな地平線が広がったことが指摘されている。

 こうした人類の歴史に照らせば、近年、世界的に格差の拡大や環境破壊などの問題が深刻化し、工業化社会が大きな曲がり角を迎える中で、新たな倫理、思想、価値基準が生まれるのかも知れない。そこでのキーワードは、「サステナビリティ(持続可能性)」「インクルーシブネス(包摂性)」「ダイバーシティ(多様性)」などになるだろう。また、世界的に注目度が高まっている「メタバース(コンピュータが作り出す三次元の仮想空間)」や、宇宙開発、人工知能、生命科学の進展なども、人類の歴史にとって決定的に重要な意味を持つ可能性がある。

 岸田政権は、「新しい資本主義」について、こうした多様な時間軸に照らして、多面的、複眼的に考察した上で、政策手段を提示するべきであろう。(5月10日執筆)

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