2022-05-17

危機で露呈した日本の「根本的な弱さ」にどう手を打つか?ニッセイ基礎研チーフエコノミストの直言

矢嶋康次・ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト

「『我慢する』という戦略は駄目だし、『この状況がいつまで続くか』という発想はあり得ない」とニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの矢嶋康次氏は訴える。コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻で世界は「不可逆」に動くという前提で国も企業も手を打たなければいけないと話す。日本の根本的脆弱性、企業の稼ぎ方についてどう手を打っていくべきなのか─。

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「我慢する」という戦略はあり得ない


 ─ ロシアのウクライナ侵攻は世界に大きな影響を与えていますが、矢嶋さんはどう捉えていますか。

 矢嶋 今回の話は「何が変わったか? 」をまず考えることが重要だと思っています。かねてから「新冷戦」や「経済安全保障」などと言われ続けていましたが、後から歴史家が振り返る時に、「世界の秩序が完全に変わった」と捉えるべき大きなイベントになったと思います。

 大前提としては、例えば足元のインフレにどう対応するかといった時に「我慢する」といった戦略では駄目ですし、「この状況がいつまで続くか」という発想はあり得ないということです。そうではなく、変わったことに対してどう対応するかを考えなければなりません。

 ─ 足元の危機に対応するだけでなく、世の中は変わったという認識が必要だと。

 矢嶋 そうです。この30年を見ても、企業はグローバル化の中でコストを最小化し、どれだけ利益を出すかを考えてきましたから、安い場所からモノを調達し、組み立てて、最も高く売れる場所に持っていくという戦略を取っていました。

 しかし、新冷戦の中では調達の量が限られてきますから、リージョナル、ある地域で利益を上げなければならないという構造になり、グローバルから外れていくことになります。いずれグローバルに戻るのではなく、新しい稼ぎ方を考えなければならなくなっています。

 また、はっきりわかったことは、日本は自給率があまりに低すぎるということです。エネルギーだけでなく食料もそうです。経済安保も含め、安全保障は全て外にお願いしている。世界で物事を決めるという時、常任理事国の中にも入っておらず、主導権を持っていません。

 今回露呈した日本の脆弱性に対して、国として、企業として何ができるかを考える必要があります。企業は、人権や消費者目線を考えると、例えばロシアや中国のような権威主義の国々との関係を縮小せざるを得ないでしょう。

 自給率が低く、外との関係を保たなければ生きていけない国として、日本政府には企業とは違う戦略に基づく意思決定があり得ます。ただ、今の日本には、そうした戦略が見えませんから、問題が起きていると思います。

 国の「外」で日本のどういう産業が必要とされているのか、その中で日本ができることは何なのかを考える必要がありますが、残念ながら今はまだ日本ありきの議論に終始している。

 ─ 日本の脆弱性を認識した上で方向性を議論しなければいけないということですね。

 矢嶋 ただ、今の岸田政権は分配面の話が多く、国の成長力や強さをどう高めるかという議論が少ない。タイミングが悪いと感じています。その根本の議論をする必要があります。

 懸念されるのは、企業はどうしてもリスクをコントロールする方向にシフトするでしょうから、〝殻〟に閉じこもってしまうのではないかということです。「リスクを取って何かする」のではなく、「チャンスがあっても前に出ない」という志向になりつつある。この問題をどうするか。

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