2022-04-18

関西経済同友会代表幹事に直撃!関西はインバウンド、中国市場に頼った産業構造から脱却できるか?

古市健・関西経済同友会代表幹事

「この失われた30年の〝モヤモヤ〟を突き崩す最後のチャンス」と話すのは、関西経済同友会代表幹事(日本生命保険副会長)の古市健氏。平成の30年は「失われた30年」とも呼ばれ、日本は課題を抱えながらも、それを変えることができなかった。そこに降り掛かったのがコロナ禍。2022年2月開催の第60回「関西財界セミナー」では「根底から見直さなければいけない」という機運が高まった中での議論となったが、古市氏は「言いっぱなしにはしない」と力を込める。地域の潜在力をどう掘り起こすか─。

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「元の世界には戻らない」という覚悟を共有


 ─ 日本を巡る経済環境は混沌としていますが、現状をどう見ていますか。

 古市 平成の30年間は「失われた30年」とも言われ、日本は低成長が続きました。平和な時期ではありましたが、国民の中に達成感は薄く、閉塞感が漂っていました。企業が試行錯誤をしながらグローバル化を進めたのも、この時期です。

 高度経済成長、その後の安定成長の成功体験もあり、日本のビジネスモデルの「神話」が生まれ、「イノベーションのジレンマ」のような形で、なかなか変えられない時代が続きました。

 この日本経済の構造的な課題について、多くの人が「おかしいぞ」と思い始めた時に起きたのがコロナ危機です。この危機で「問題を先送りするわけにはいかない」、「根底から見直さないといけない」という機運が一気に高まったと感じています。

 コロナは非常に厳しい状況をもたらしていますが、目を覚まさせたという意味で「黒船」とも言えるかもしれません。今の我々には明治維新のような変革ができるのかが問われていると思います。

 ─ その中で開催された「関西財界セミナー」は60回目となりました。何を目指して議論をしてきましたか。

 古市 6つの分科会ではテクニカルな課題よりも、より大きな構造的問題について議論しました。コロナで顕在化した、失われた30年の様々な課題をカバーする議論になったと思います。

 ─ 今回のテーマは「関西を起点に反転へ~フロンティアに立つ覚悟~」でした。このテーマに込めた思いは?

 古市 2021年度の関西経済同友会のスローガンは「Afterコロナ時代へのパラダイムシフト」でした。リスクはあるけれども、今こそ日本のパラダイムを根本から変えなければいけない、その先頭に我々が立つ。この失われた30年の〝モヤモヤ〟を突き崩す最後のチャンスだという決意を込めました。2日間の議論を通じて、決して言いっぱなしにならないという覚悟を、全ての参加者が胸に刻んだと思います。

 ─ 直前までリアルでの開催を予定していましたが、オミクロン株の蔓延でオンライン開催に変更されましたね。

 古市 昨年に続いてオンライン開催となり、直接皆さんに出会えなかったことは非常に残念でした。ただ、昨年はまだ参加者の意識のどこかに「コロナが収束すれば元の世界に戻るのでは? 」という淡い期待がありました。これが今年は「この流れは不可逆的なのだ」という意識に変わり、より強い危機感を持って議論できたことが、大きな前進だったと思います。

ヘルスケア、ライフサイエンスで成長を


 ─ 関西経済の置かれた現状をどう見ていますか。

 古市 今の日本の縮図のようなものだと思っています。戦後、大阪はものづくりの会社を中心に、経済都市として成長し、大きな役割を担ってきました。

 その後、低成長期に入ってからも、日本が抱えてきた働き方や雇用制度の課題を、インバウンドの特需や中国の経済成長にともなう輸出増などが覆い隠してきた面があると思います。

「『安いニッポン』からの脱却」をテーマに議論した第6分科会では、問題提起者が「コストカットが正義であるという〝宗教〟」と仰られていました。手段を問わない「コストカット至上主義」が「人」への投資すら抑制し、イノベーションも生まれないという迷路に、多くの企業・経営者が入り込んでしまったのではないかと思います。

 今後はインバウンド、中国市場に過度に依存してきた構造を転換せねばなりませんし、関西に〝種〟や産学のリソースが集積しているヘルスケアやライフサイエンスをさらに伸ばしていく必要があるでしょう。

 大阪・関西万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を描く上で、関西が先頭に立ち、魅力的な都市になっていく必要があると思います。

 ─ 先程「言いっぱなしにしない」と言われていましたが、今回の議論を現実社会にどう還元していきますか。

 古市 参加した経営者の皆さんがそれぞれ持ち帰って、感じたことを実際の経営に活かしていかれると思います。そして、喉元過ぎれば熱さを忘れる、とならないよう、議論した内容がどう進捗しているのかを、「関西財界セミナー」で定点観測していくことも一つのやり方だと思います。

 今回のセミナーを通じて強く感じたことは、多くの参加者がトランジショナルな意識を持って臨んでいたということです。これまでの経営のスタンダードを変えて行かねばならない。従業員への投資や、社会への貢献を通じて、イノベーションを生む。経営の軸として、「グリーン」や「ソーシャル」の視点も、より強く求められてくると思います。

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