── コロナ禍で株高現象が起きていますが、日本の経済の心臓部を握る証券トップとして、野村ホールディングス会長の永井浩二さん、21年の株価・世界経済の動向をどう見ていますか。
永井 コロナの状況がこれ以上悪化しなければ、20年の日本経済は5%程度の落ち込みになると思いますが、21年はプラス3%程度と潜在成長率を少し上回るぐらいの回復はするというのがメインシナリオです。
中国が21年に約9%の経済成長をするだろうと予測されていますが、日本は中国の経済回復の恩恵を受けやすいので、日本経済全体、株価の状況もそこまで悪くないと思います。
── 米バイデン大統領の誕生は世界経済にプラスですか。
永井 米議会は上下両院でねじれる見通しで、大幅な増税などは簡単にはいかないだろうと、マーケットは安心しています。
また、トランプ大統領の時代は世界中で混乱が起きましたが、バイデン氏は協調路線に戻るだろうと見ています。
最も懸念しているのは経済政策ではなく、地政学リスクです。特に日本の場合は台湾も含めて東シナ海のリスクが顕在化すると、株価は相当ネガティブインパクトを受けますからね。
── では、長年の課題である日本の「貯蓄から投資へ」の流れはどう見ていますか。
永井 これは私の持論ですが、日本は国民性もあり、「貯蓄から投資」が進まないと言われていますが、実は日本人というのは非常にクレバーな投資行動を取る国民です。例えば、昭和50年代後半からインフレが続きましたが、1989年の個人金融資産に占める有価証券の比率は30%ありました。
── 足元では15%程度しかありませんね。
永井 ええ。世の中がインフレになっていると思えば、現預金で置いていたら損をするので、有価証券に投資をしている。90年以降は長いデフレのトンネルに入ってしまったので、有価証券で置いておくよりも現預金で置いていたほうが得でした。その結果、この間は有価証
券比率が下がりましたが、安倍首相の登場で「脱デフレ」を打ち出したことで、15%程度にまで増加しているのです。
ですから、デフレから脱却して、適度なインフレに向かうと見れば有価証券に投資することは歴史が証明しています。
政府は積立NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)など、税制の手当てもしてくれています。我々も運用会社・販売会社・受託会社の報酬をゼロにしたNISA専用の「スリーゼロ」投信を出していますが、時間という武器を持つ若い人に関心を持ってもらえています。