2020-12-26

日中共有の課題・高齢化、医療のDXに着手 塩野義製薬が中国・平安保険と進める 新・ヘルスケア戦略

塩野義製薬本社

「中国、アジアを見る上で、平安は最良のパートナーだった」(塩野義製薬社長・手代木功氏)。中国・平安グループと合弁会社を設立した塩野義。既存ビジネスの構造改革に加え、様々なデータを活用した新薬開発、効率的な治験など新たな仕組みづくりや新規事業創出にも取り組む。かつて、特許切れの崖(パテントクリフ)をHIV製品のロイヤリティ化で乗り越えた塩野義。2028年に訪れる次のパテントクリフや構造改革を、この提携で乗り越えられるか──。


ヘルスケア情報を患者個人が持つ時代

「ヘルスケアの一翼を担う製薬会社として、平安グループさまと新たなプラットフォームを作っていく」(塩野義製薬社長・手代木功氏)

 塩野義製薬が51%、中国・平安グループが49%を出資して設立した合弁会社「平安塩野義」の概要が明らかになった。

 合弁発表時から、手代木氏が強く訴えていたことは「2030年、2040年を考えたとき、今とは違う枠組みを作らなければいけないのではないか」という問題意識だ。

 塩野義が平安グループとの戦略的パートナーシップを決断した背景には、特許切れによる「パテントクリフ」をどう乗り越えるかという問題と「技術の進化」がある。

 5GやAIなど、技術の進化であらゆる産業構造が変化する中、医療の世界も「Healthcareas a Service(HaaS)」になる必要があると手代木氏は考える。

 情報化社会の今は、患者自身が医療情報を集められる時代。病気の症状や病院の検索だけでなく、アップルの『アップルウォッチ』を付けて生活すれば、血中酸素ウェルネスや心拍数、睡眠時間、活動量、歩数など、今まで見えなかった様々なヘルスケアデータを取得できる。

 手代木氏が指摘するように「自分のヘルスケア情報は国でも企業でもなく、個人のもの。医療情報をもっと個人が有する」流れになっている。

「クロスボーダーで個人情報を扱うことは難しいが、個人の健康情報を活用してグローバルに通用する医薬品、ヘルスケアをどう作っていくかは非常に大きなテーマ」だ。

 その中で、製薬メーカーは「新薬を開発して提供」するだけでなく、プラットフォームを通じて「患者を中心にヘルスケアに対するあらゆるソリューションを提供できる存在」にならなければいけない。だが、自分たちだけでも、同業者だけでもそれはできない。そこで目を向けたのが「世界の中でも非常に強いデータベース、ヘルスケアに対するノウハウを持っている平安グループ」だった。

 平安グループは中国を中心に保険、銀行、投資業務を手掛ける金融コングロマリット。インターネットサービスも提供し、データの利活用でも世界の先をいく。

 インターネットサービスの利用者は5・6億人。保険・金融サービス加入者は2・1億人。 患者と医師をマッチングするオンライン診療のプラットフォーム『グッドドクター』では自前の医療従事者1800名を抱え、提携薬局も11万軒以上ある。

 グッドドクターで診断が終わると、処方箋やOTC(市販薬)が出され、郵送もしくは薬局、OTCなら自動販売機で薬を購入できる仕組みも構築している。

『グッドドクター』が中国で普及したのは中国の医療の課題解決をしているからだ。中国では病院によって提供する医療の質に差があるため「500床以上の大病院に患者が駆け込み、整理券を売るビジネス」まで生まれている。グッドドクターは、この問題を適切な医師と患者をマッチングすることで解決した。

 また、中国では代理店が入ることで、製品を販売しても利益がほとんど出ないことも多い。だが、グッドドクターのプラットフォームでは薬の流通も「中間業者を介さない効率的な販売モデル」。塩野義はまずこのプラットフォームに自社製品を載せ、事業化していく。

 平安塩野義が目指しているのはHaaSの仕組みを作り、現在の医療を取り巻く様々な課題を解決する〝新たなヘルスケアのカタチ〟を創造すること。

 その意味でも「自社の創薬技術を磨きながら、他産業の皆様への理解力を高めることが重要だと考えている。プラットフォームの他の企業様と組む力、アライアンス力が重要になる」と手代木氏は語る。

生活データも活用した新たな治療法も

 平安グループのプラットフォームに塩野義の製品を載せるなど、初年度から「売りも利益も出るビジネス」(手代木氏)を展開するが、目指しているのは「ヘルスケアの未来の創造」。

 生活データから診断データ、治療法の効果までを関連づけ、患者に最も適した治療法を提供できるプラットフォームを構築するのが最終的な目標だ。

 平安グループが塩野義と組んだのは、中国の医療にはまだまだ課題が多いということ。

 市場は拡大しているものの、医師不足や提供できる製品やサービスが足りない状況。また高齢化、医療費の拡大、地域間格差などの問題も横たわる。

 そうした問題をデータの活用で最適化したソリューションを導き出し、バリューチェーンの生産性向上で高品質、適正価格の医薬品を提供することで乗り越えようとしている。

 平安塩野義は上海と香港に拠点を設立。上海は「研究開発やIT関連技術の開発」などの役割を担い、香港は「他のアジア諸国への製品の輸出入やライセンス関連」の役割を担う。

 また、塩野義はエース級の人材を合弁会社に送り込み、平安もAIエンジニアやデータサイエンティストなど優秀な人材を投入し、平安塩野義自らが新薬開発力を持てるようにもする。

 国家資本主義や民主主義問題など中国企業と組むことにはリスクも絡む時代。合弁会社の拠点を上海と香港に設置したのも、危機管理対策ともいえる。

 世界が混沌とする中、共有する課題の解決で成功モデルを作れるか。塩野義と平安の取り組みは国家をまたぐ新たなビジネスの創造、また、平安以外のプラットフォームから塩野義が選ばれる存在になるためにも重要な意味を持っている。(2020年11月4日)

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