2020-12-26

創業者・池森賢二氏が6年前に手掛けた独自のITシステムが奏功 店舗売上げの大幅減をネットでカバーするファンケルの通販戦略

島田 和幸 ファンケル社長執行役員CEO 1955年12月生まれ。広島県出身。79年同志社大学法学部卒業後、ダイエーに入社。中内功氏の秘書も8年間務めた。2003年ファンケル入社、07年取締役経営戦略本部長、11年取締役常務管理本部長、15年取締役専務グループセンター長を経て、17年4月社長に就任。

コロナ禍で店舗売上がほぼゼロになる中、そのダメージを通販でカバーしたファンケル。成功の要因には自前の物流などの通販システムがある。「創業者が無添加化粧品を作り、お客様のご自宅に直接お届けしていたが、お客様が増え、通信販売が始まった。今回もファンケルが元々持っている強みが発揮できた」と社長執行役員CEOの島田和幸氏は語る。2014年から着手したシステム刷新も含め、ファンケルが構築した「D2C(Direc to Consume)」の仕組みとは--。本誌・北川文子 Text by Kitagawa Ayako

3月から店舗の顧客をネット通販に誘導

「直営店の売上比率は34%。それがほぼゼロになる。それをどう乗り切るか」(ファンケル社長執行役員CEO・島田和幸氏)

 コロナ禍で店舗休業を余儀なくされる中、小売店は感染防止に加え、売上減をどう乗り越えるかが喫緊の課題となった。2019年度インバウンドの売上が140億円あったファンケル。業績へのダメージは必至だ。

 そうした中、1月23日、全店に予防対策を指示。2月5日には危機管理委員会を設置し、週3回のペースで役員・組織長が対応策を立案、実行に移してきた。

 コールセンターは、フロアや拠点を増設して5つに分散。困難な状況下で電話対応にあたる従業員163名には6月末まで月額約15000円の手当を支給。また、店舗休業を余儀なくされると約1800人の社員に100%の休業補償を行った。
「辛いときに頑張って働いてくれた。お給料のことは心配せず、家でゆっくりして下さいと。その代わり、会社が送った教材で家で勉強してもらいました」と補償に込めた思いを語る。

 コロナ禍で化粧品各社が大幅な業績悪化に見舞われる中、ファンケルは8月、21年3月期第2四半期の業績予想を上方修正。売上高545億円、営業利益43億円とした。通期も売上高1270億円、営業利益145億円と前年比増収増益を見込む。

 ファンケルの業績がコロナ禍でも踏み留まったのは中国向けの越境ECの好調や商品を支持する固定客に加え、通販への誘導に成功したことが大きい。

 4―6月の直営店売上高は前年比79億円減。インバウンドが46億、国内顧客分は33億円だったが、国内売上のほぼ同額の30億円を「通販」で稼いでいるからだ。

 直営店には販売計画があり、物流センターには製造子会社から届けられた商品が待機している。ファンケルは品質保持のため消費期限を厳しく管理している。商品を廃棄しないためにも

「店舗で売れないのなら、通販で売る」戦略へと切り替えた。

 3月18日に「5%ポイント還元ネットクーポン」を配信すると、4月1日には「ネット通販限定の送料無料キャンペーン」を開始。同16日には店舗利用者に「500円OFFネットクーポン」を送付、23日には同施策を全国に拡大。5月1日には店舗向けメンバーズアプリに「買い物できる機能」を追加。短期間でこれだけの施策を実行できたのは、ファンケルが独自開発した基幹システムの存在がある。

通販の専用基盤

 例えば、顧客データ管理。

「以前は電話とネットの通販、直営店と3つの顧客データベースがあった」と島田氏。その3つのデータを夜間に更新して1つに揃えていた。それを18年に1つに集約。「顧客データがリアルで連携」するため販促を打ちやすい環境が整っていた。

 またスマートフォン向けアプリも「以前は店舗情報とポイント残高がわかる仕組み」だったが、5月からアプリで買い物できる機能を追加。これも「10日間」というスピードで実装した。

 スマホアプリの登録者数は50万人。「スマホアプリならプッシュ通知でお客様に直接メッセージを送れるので、店舗が休業した際、『今なら通販で送料無料なので、ぜひご利用下さい』と対応できた」と振り返る。

 同じことをダイレクトメールでやろうとしたら、期間は約1ヵ月。コストも1枚100円近くかかる。だが、アプリ経由なら安いコストで実施できる。

 ファンケルは13年、業績低迷を打破するため、創業者の池森賢二氏が名誉会長兼執行役員として経営に復帰。翌14年にプロジェクトを立ち上げて、16年の通販システム、18年に店舗やWebシステムを刷新、オムニチャネル体制を構築した。

 新たな基幹システムはクラウド技術を活用し、低コストで高い柔軟性を保持。13~19年度のITコストを約3割削減した。

 銀行のシステムが象徴するように、IT技術の進化でシステムが継ぎ接ぎ状態になり、利便性が低い上、システム改修に多額のコストがかかってしまう企業は多い。ファンケルは、そうした問題に数年かけて取り組み、システム刷新を行った。

 こうして構築したIT基盤の上に「毎月約320万人が訪問する『FANCL ONLINE』という自社サイト」があり、商品を出荷する「通販用の物流センター」、「通販専用の電話の窓口」がある。「様々なインフラがあって、初めてECの強化が実現できる」わけだ。

 中でも重要なのは"自前で売れる仕組み"を持つことにある。

 小売りの世界でD2Cの重要性が言われるのもアマゾンや楽天などのプラットフォーマーに頼っていては「短期的に商品を届ける」ことはできてもデータはプラットフォーマーにあるため「顧客との関係を築きながら販売することは困難」だからだ。

 物流もプラットフォーマー任せでは手数料がかかり、収益が出しづらいのが現実だ。

「店舗もカタログも重要ですが、この時期、デジタルの強みを磨いていかなければいけないと痛感する」と島田氏は語る。

 そうした中、他社に先駆けて始めたのが"ライブコマース"。社員が動画を自前で制作し、商品を販売している。

「売上げは大きくないですが、お客様とのつながりや新しい体験をしていただくことに意味がある。世の中が変わる中、自分たちも変わらなければ生き残れない。失敗してもいいから、新しいことをやっていこうと社員には伝えています」

 19年、ファンケルは大株主が創業者の池森賢二氏からキリンホールディングスに代わり、池森氏も代表取締役を退任。その中でコロナ禍が起きた。2020年創業40周年を迎える中、コロナ禍は新生ファンケルが乗り越えなければならない危機であり、自らの強みを再認識する機会にもつながった。

 コロナ禍でも増収増益を目指すのは、新生ファンケルを担う島田氏の覚悟の表れと言える。(2020年10月21日)

ファンケル 物流施設

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