「私の先祖は外出することも、学ぶこともできませんでした。でも私は学ぶことができ、働けてもいる。先人が築いてくれた社会を後世に残したい」─。2万人に1人といわれる難病「骨形成不全症」は遺伝性のもの。骨が弱く折れやすいため、幼少期から車いすで過ごしてきた、ミライロ社長の垣内俊哉氏。大学時代に起業し、今、どんな事業に取り組んでいるのか。
障害者関連事業をビジネスとして成立させる
─ ミライロが現在、進めている事業について聞かせて下さい。
垣内 まず、当社の事業の前提として、障害のある方々の視点・経験・感性を生かしているということが言えます。そこで企業理念を「バリアバリュー」とし、障害を価値に変え、新しいビジネスを創っていこうと取り組んでいるところです。
今、日本は過渡期にあります。2016年に「障害者差別解消法」が施行されました。この法律は、障害者に対する対応、つまり障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止と合理的な配慮を求めるものですが、産業界からの反発も強く、施行時点で民間企業は「努力義務」とされました。
ただし、他国の動きにならって、日本も「法的義務」にしなければいけないということで21年に国会成立、24年6月までには民間企業も法的義務の対象となります。
─ 日本が変わるきっかけになりそうだと。
垣内 ただ、リスクとしても捉える必要があります。
米国には1990年に成立したADA(障害を持つアメリカ人法)という法律があるのですが、それによって企業は、障害者から「バリアフリー化ができてない」、「対応もサービスもなっていない」なとど訴えられており、年間8万件にも上っています。
私は日本でこうした事態に陥ることを防ぎたいと考えています。訴えられるのが怖いから取り組むという流れだと、障害者と企業の溝は深まるばかりです。訴えられるからではなく、「儲けるために」という流れにするために、ビジネスとしての重要性を皆さんにお伝えしていくことが必要だろうと。
─ ビジネスとして成立するために必要なことは?
垣内 「環境・意識・情報」のバリアを解消していくことです。そのために、障害者や高齢者などへの対応を学ぶ「ユニバーサルマナー検定」を創設し、運営しています。障害者が講師を務めますから、雇用創出にもつながっています。
ホテル、外食などサービス業はもちろんのこと、障害者雇用を進めたい企業でも導入いただいています。また企業だけではなく、老若男女、様々な方々がご受講くださっています。品川女子学院さんをはじめ、学校の必修授業とするなど、中・高・大で授業に採用する動きも続いています。
─ ユニバーサルマナーを習得することでどんな効果が得られますか。
垣内 障害者に向き合うことが特別なことではなく当たり前のこととして、「自分事」に捉え取り組めるようになることを目指しています。「できたらちょっとかっこいいよね」というような資格であることが大事だと考えています。
─ 運営を通じて感じることは何ですか。
垣内 障害者への向き合い方は、「見てみぬ振り」か、「おせっかい」かのどちらかに二極化しています。適切な対応ができるようにしていく必要がありますから、ユニバーサルマナーをさらに広げることで企業のサービス力向上、障害者雇用の円滑化につなげていきたいと思います。
今、例えば大阪府のとある自治体では、職員採用試験のエントリーシートにユニバーサルマナー検定を持っているかという欄があるくらい裾野が広がってきていますし、航空業界などでも推奨されています。