2022-01-20

「トヨタはEVも前向き!」社長・豊田章男が見せるトヨタの意地

16車種に及ぶバッテリーEVのラインナップ

「米・テスラに負けてたまるか」という思いが垣間見られる宣言である。トヨタ自動車は独・ダイムラーの年間販売台数と匹敵する電気自動車(EV)を2030年には投入する。社長の豊田章男氏は同社の電動化戦略について「トヨタはグローバルに、フルラインでやっていく」と改めて強調。エネルギー事情が各国で異なり、雇用も抱える中、トヨタは次世代車を自らがリードする気構えを見せる。

HVで磨きをかけてきた歴史

「350万台、30車種を投入しても、前向きじゃないと言われるのなら、どうすれば前向きな会社と評価してもらえるのか。逆に教えて欲しい」

 トヨタ自動車社長の豊田章男氏は自社の打ち上げた電動化計画について、こう主張する。内容の骨子はEVの2030年の世界販売台数を350万台に引き上げたこと。21年5月時点でFCV(燃料電池車)と合わせて200万台と定めていたが、さらに150万台上乗せする。

 発表会の場には小型車から大型のスポーツ多目的車(SUV)、中型セダン、商用車、高級車ブランド「レクサス」の市販予定のEVまで16に及ぶ車種が披露された。実は、これらのクルマにモーターなどは搭載されておらず、自走できないものばかり。通常のトヨタの新車発表会ではありえない光景だ。ただ、これらのEVは「ここ数年で出てくる」(同)ものになる。

 同社関係者によれば、豊田氏は「今回の発表会をショーと位置付けていた。トヨタの本気度を見せなければならないと考えていた」という。トヨタはいつでもEVを市場投入できる準備があることを示すことが狙いだ。

 実際、「マツダ1社分の年間販売台数を全てEVにするという決意。トヨタの本気度を感じる」と指摘するアナリストによれば、以前からトヨタはEVの大量投入に向けた準備を着々と進めていたという。同社の目論見では25年には現在主流のリチウムイオン電池よりも性能が高い「全固体電池」を搭載したEVを投入し、30年以降には「500~600万台はEVに置き代える」(同)というものだ。

 電動化に投じる投資8兆円のうち、2兆円をEVの性能を左右する車載電池の開発に当て、電池以外ではEVの車両開発に2兆円、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、FCVに4兆円を投じる計画も示した。

 トヨタの打ち上げた電動化計画では2つのポイントがある。1つ目は電動車の「全方位戦略」を貫いている点だ。欧米を中心に自動車大手がEVに一気に舵を切っているが、豊田氏は「市場の動向を見ながら車種や量を柔軟に変えていくことが大切だ」と話した上で、「CO2は削減したいが、正解が何かはまだ分からない。1つの選択肢では難しい」(同)と見通しを語る。

 例えば、ブラジル。同国ではガソリンよりも価格の安いトウモロコシ由来のバイオエタノールが普及している。ブラジル自動車製造業者協会によれば、電動車導入のためのインフラ投資が高コストなため、電動車の普及につながらず、「35年まで内燃機関搭載の自動車が市場の80%以上を占める可能性が高い」(関係者)と言われている。

 要は、国によっては無理矢理EVを持ち込んでも売れる保証がないということだ。米国でも西海岸や東海岸では充電網が整備されているが、「それ以外の地域では、まだまだガソリン車の方が利便性が高いなど、国の中でも事情が異なる」(執行役員の前田昌彦氏)。各国のエネルギー事情などに柔軟に対応するためにも様々な選択肢を用意する戦略に変更はない。

 トヨタのスタンスは、どの電動車がその国の主流になるのか、あるいは各国の消費者に受け入れられるのか。それを見極めながらの電動化計画ということになる。米テスラが中国やドイツなどで完成車工場の新設を進める中でも、トヨタは電池工場の新設を打ち出しても、完成車工場の新設は「計画していない」(前出のトヨタ関係者)。

 それが可能なのは、累計世界販売台数が1500万台を超えるHVの生産を通じ、「電池とモーターを扱う効率的なものづくりに磨きをかけてきた」(同)からだ。EVについては既存工場でガソリン車などと同じラインでの混流生産で対応する考え。その背景には「35万人以上の従業員を路頭に迷わせることができないという豊田氏の緊張感がある」(別の関係者)。5万人弱の「テスラとは背負っている重みが違う」(同)というわけだ。

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