2020-12-17

樋口建介・群馬パース学園理事長が語る「コロナ禍の大学運営」

樋口 建介・群馬パース学園理事長

7年前の経験が今回のコロナ禍を生き抜く源泉となった─。老人ホームから病院、専門学校、大学まで、医療・福祉・教育分野で一大グループを築き上げた樋口氏。新型コロナウイルスの感染拡大は教育現場にも大きな変化をもたらしてきたが、樋口氏は「学生にとって大事なことは何なのかを考え続けることが、最終的には学生確保につながってくる」と指摘。今後の地方大学が生きる道とは─。

学生たちにも正しい知識と情報を提供



 ─ コロナ禍における大学運営の感想から聞かせてもらえますか。

 樋口 グループで病院を運営しておりまして、7年前にアシネトバクターという感染症の患者さんを受け入れたことがありました。この時、患者さん一人を受け入れたために、他のスタッフも感染してしまったことがあったんです。

 アシネトバクターというのは、抗菌剤がほとんど効かない多剤耐性菌の一つで、免疫力が弱っている人に感染すると肺炎などを引き起こすんですね。うちの前にも帝京大学でそういう症例があったそうなんですが、とにかく、われわれの病院では初めての患者さんだったんです。

 最終的には7人でおさまったんですが、この時の経験がありましたので、いつか感染症が流行った時には、マスクの着用やこまめな手洗い・うがいの徹底、スタッフの体温チェックなどの健康管理を徹底しようと考えていました。ですから、比較的大きな混乱はなく、現在まで病院運営ができています。

 ─ そういう原体験があったというのは大きいですね。

 樋口 ええ。この時、われわれはとにかく必死で群馬県や医師会など、あらゆる伝手を辿って感染症対策を行いました。そうした経験がありましたので、当時お世話になった、国立感染症研究所の感染疫学センター室長だった木村博一先生に、平成29年から群馬パース大学に来てもらいまして、現在は本学の大学院教授になってもらっています。

 ですから、木村先生という感染症のスペシャリストもおりますので、今回のコロナ禍では木村教授からも指導を仰いで対策をとることができました。今では群馬県で一番いい対策ができているとお褒めの言葉をいただいているくらいです。

 ─ 大学に木村先生のような専門家がいるというのは心強いですね。

 樋口 本当にそうです。木村先生は今、新型コロナの治療薬の研究をしたり、群馬県では初めて保健所以外で本学が検査所の許可をいただいて、PCR検査の共同開発をしています。

 ─ PCR検査の開発というのはどういうものですか。

 樋口 木村先生がタカラバイオとの共同研究によって、迅速・簡便な新型コロナウイルス検出PCRキットを開発して、すでにタカラバイオから市販されています。

 わたしは、医師ではないので詳しいことは分かりませんが、検査時間が従来に比べて、半分以下の約1時間に短縮されたということで、発表した5月ごろには多くの新聞やメディアから取材されました。

 5月末からは大学の新型コロナウイルス検査センターが高崎市より衛生検査所として認可されました。ですので、われわれは群馬県、高崎市ならびに医師会などの関係諸機関と緊密に連携しながら、県内の当該感染症の拡大防止に貢献していきたいと考えています。

 ─ 地域での連携を進めるということですね。

 樋口 そうなんです。これが結果的に、新型コロナという得体のしれない感染症に対して、怖さを感じている学生たちにも正しい知識と情報を提供することになりました。正しい情報を得て、きちんと対策をとれば大丈夫だと。これは大きかったですね。

学生全員が4年に一度は海外研修を体験



 ─ 現在の授業はどうなっているんですか。

 樋口 当初は全授業がオンライン授業(遠隔授業)でしたが、緊急事態宣言が解除された後の6月下旬から対面授業とオンラインを徐々に組み合わせて授業を行ってきました。

 これが後期からは対面授業も全面的にスタートしました。その前の2009年から学生一人ひとりにノートパソコンを渡していましたから、これも図らずして、コロナ禍の対応で功を奏しました。

 ─ これは学生にパソコンを貸し出すんですか。

 樋口 パソコンは1年生の時に無償貸与し、4年間使ってもらいます。そして卒業する時にプレゼントするんです。

 それを2009年から始めて、2014年からはパソコンをタブレット型のパソコンに変更しました。さらに2016年からは富士通の文教タブレットというのがありまして、これが耐久性の高いパソコンということで採用しています。

 うちの場合、女性の学生割合が高いですから、非常に軽量でコンパクトなパソコンということで評判もいいです。

 ─ コロナの前から、オンライン授業もできる環境が整っていたんですね。

 樋口 今回も特別な費用を投じることなく、スムーズに対応できました。

 今も多くの大学では対面授業に踏み切ることに抵抗を持っている面もあるようですが、うちの大学では専門家の方々のご意見を頂戴しながらやってきましたので、後期からはいち早く全面的に対面授業を行うことを決めたのです。

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