2020-12-17

金丸恭文・フューチャー会長兼社長「紙をデジタルに置き換えればそれで済む話ではない」

金丸 恭文・フューチャー会長兼社長

安倍政権時代に規制改革推進会議の議長代理や未来投資会議の議員をつとめるなど、これまで民間の立場から政府に様々な提言をしてきた金丸氏。菅政権が進めるデジタル改革や規制改革においても「オンライン診療やオンライン教育が普及すれば地方振興につながる」と指摘する。菅政権は岩盤規制を突破し、日本経済を浮上させることはできるか──。

組織をつくることがゴールではない



 ─ 菅義偉首相はデジタル庁の創設や規制改革に乗り出す方針を示していますが、まずは新政権発足の感想を聞かせてもらえますか。

 金丸 わたしは以前から、経済同友会でも情報通信省のようなものをつくるべきだと訴えてきました。アジアの中で情報通信省がないのは日本だけだからです。

 実際、安倍政権になってから何度も議論をしてきて、省だと経済産業省と総務省とのつばぜり合いのようなことが起こってしまうという懸念も皆さん指摘されていましたし、デジタル庁として予算も計画も調達も含めて、全てを一元化できるような組織にするべきということを提言してきました。

 今回コロナ禍で10万円の特別定額給付金を給付する際に、デジタル対応における日本社会のボトルネックが顕在化しましたから、それを一気に解決しようということでデジタル庁創設という話になったと。この方向性は間違っていないと思います。

 ─ 今回、給付金や補助金の交付をめぐっては、日本はデジタル先進国どころか、デジタル後進国だということを嫌というほど突き付けられました。

 金丸 そうですよね。だいたい、マイナンバーカードも住民票がコンビニエンスストアで簡単に入手できますというのは本末転倒な話で、普通はマイナンバーカードを持っていれば住民票が要らないわけですから。

 政府は今もマイナンバーカードを必死で普及させようとしていますが、必ずしも全員に必要なものではない。国民の多くがスマートフォンを持っていますから、スマホを持っている人にはマイナンバーや個人の情報を認識する仕組みをアプリか何かで入れておけば、わざわざカードを発行する必要はないし、役所まで取りに行く必要もないわけですよ。

 ─ 要は、スマホで事足りるということですか。

 金丸 ええ。だから、カードの発行にこだわる必要はどこにもないのです。

 間違えてはならないのは、あくまでも組織をつくることがゴールではないということ。組織をつくるのは始まりにすぎませんので、ここから中央政府と地方自治体とを合わせたデザインをデジタル庁がしっかりやっていかなければならない。かなり期待していますが、相当難しい作業になると思います。

 ─ 改革の本質とは何かということを考えなければならないということですね。

 金丸 そうです。デジタル改革というのは、今ある仕組みを単純にデジタルにしたり、オンラインにしたりすればいいと思っているような風潮があるんですが、通常、企業経営におけるデジタル化というのは業務改革とセットで行われます。

 ですから、単純に紙の書類をデジタルに置き換えればそれで済む話ではないのです。

デジタル化で地方の希少価値が生きてくる



 ─ この他、新政権に望むことはどんなことですか。

 金丸 例えば、コロナ禍でオンライン診療という議論がありましたよね。時限的なものでしたが、わざわざ病院に行かなくても、院内感染のリスクが避けられる形で診療を受けられるということを国民の皆さんが享受できたわけですから、いろんな課題はあると思いますが、これは真っ先に手を付けていくべきだと思います。また、オンライン教育も同様です。

 ─ 大学によってはオンライン授業ばかりでは問題もあるので、リアルの授業も3割程度行ったりして工夫しているようですが、リアルとオンラインのバランスはどう考えますか。

 金丸 それはコロナの状況次第だと思います。コロナが深刻化すれば、本当は対面でやれる授業もオンラインでしかできなくなるので、使い分けをきっちりできるような仕組みを日常からつくっておかなくてはならない。日常から使い慣れていないと、非常時に使えなかったりするので、これは適材適所で推進していくしかないと思います。

 ─ 早稲田や慶應義塾などの大学では首都圏出身者が7割以上を占めていて、地方出身者が少ないと言いますから、これもカバーできるわけですね。

 金丸 ええ。ですから、地方に住んでいる人がわざわざ東京に来なくても大学に進学できるし、卒業もできる。これから5G(次世代通信規格)が普及すれば、もっと便利になりますから、そういう風にならないといけませんよね。

 ─ そうなると、デジタル化を進めることによって地方振興につなげることもできますね。

 金丸 できます。今まで条件が一見不利に見えていた地域が、デジタルでつなぐことによって、その地方の希少価値が活きますよね。地方というのは、それぞれが唯一無二の場所ですが、それを東京に出てこなければならないというから、その地方の価値が浸透しないわけです。

 しかし、あらゆる人たちが今住んでいる場所から教育を受けられたり、医療を受けることができれば、国民にとっても、国にとっても非常に意味のあることだと思います。

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