2020-12-17

「モビリティテクノロジーズ」が若者を中心にタクシー市場を開拓

1秒ごとに位置情報を更新

 配車ボタンを押せば5分後にはタクシーがやってくる――。

 新型コロナウイルスの感染防止で外出を控える動きが広がった4月から6月。全国のタクシー業界では乗客数が5割以下に半減するなど苦境に立たされた。しかし、6月に入って徐々に回復し、7月には7割程度にまで戻って来ている。

 そんな中で興味深い傾向がある。それは「コロナ禍でも配車アプリでタクシーを呼ぶ乗客の数は増えた」という点だ。背景にはデータを活用して乗客とタクシーをマッチングさせる精度が高まり、タクシーの利便性が向上したことが挙げられる。

 これを手掛けるのは日本交通やDeNAなどが出資する「モビリティテクノロジーズ」(MoT)だ。

 同社はタクシーの配車アプリ「ジャパンタクシー」や「GO」などを手掛けるテクノロジー集団と言える。今年4月1日、日本最大のタクシー配車アプリ「ジャパンタクシー」を運営していたタクシー最大手の日本交通グループであるJapanTaxi社と、タクシーの総合的なスマート化を目指す配車アプリ「MOV」を運営していたディー・エヌ・エー(DeNA)のモビリティ事業が統合した。

「10年ほど前まではタクシーがどこにいるかも分からなかったが、今では1秒ごとに位置情報が更新され、どこにタクシーがいるかをリアルタイムで把握できるようになっている」とMoT取締役の岩田和宏氏は語る。

 2011年に初めて登場したタクシーアプリでは、無線システムと連携して位置情報を把握できてはいたが、数十秒に1度しか更新されず、乗車を希望する客の前を通り過ぎたりすることがあった。しかし、今ではリアルタイムの位置情報が判るため、素早く配車することが可能だ。

 配車アプリ「ジャパンタクシー」と「MOV」が統合して生まれた配車アプリ「GO」は9月にスタートした。そんな配車アプリに対応したタクシーが進化を遂げ、新規顧客を掘り起こしている。「都内のあるタクシー会社では、これまでは電話での配車が主だったが、今はアプリでの配車が8割になっている」(同)。しかも、アプリ配車の乗客は「20代後半から30代前半の若者が多い」と岩田氏。それだけタクシーの存在が身近になっていると言える。

 岩田氏は「タクシーにGPSを搭載して位置情報を把握することから始め、過去の経験則や現在の道路・渋滞状況なども加味した機会学習を重ねた配車アルゴリズムによって"予測"の精度を上げた」と話す。

新人運転手でも平均営業収入が稼げる「お客様探索ナビ」

 その成果は「配車」だけに留まらない。走りながら乗客を探す「流し」でも効果を上げている。MoTがタクシー会社に提供している「お客様探索ナビ」がそれだ。

 このサービスは運行中のタクシーから収集する走行位置や車速などの情報を用いて生成された道路交通情報を解析し、カーナビゲーションのように運転手をリアルタイムで乗客が待つ通りまで誘導する。

 つまり、「道を気にすることなく、お客様を拾えそうなルートをナビゲーションする」(同)という仕組みになる。これにより新人の運転手であっても中堅の運転手並みに稼げることになる。

 岩田氏は「新人のボトルネックは地理を覚えること」と話す。一般的に1日約15時間の乗務時間中、客を乗せる時間は3時間程度と言われるが、この"空白時間"を埋めて乗車率を上げることで運転手の収入も上げられるのだ。

 もともと、新卒学生の平均初任給に比べてタクシー運転手の平均年収は高く、東京都ではタクシー運転手の若返りも起こっている。「中には約800万円を稼ぐ運転手もいる」(同)という。

 さらにタクシーはドライブレコーダーをはじめ、搭載したカメラやセンサーから得られる「データの宝庫」(同)という一面を持つ。

 今後、自動運転の実用化などで精度の高い地図情報が求められるが、24時間365日、日本全国をくまなく走行し続けるタクシーから得られる情報が重宝されているのだ。

 MoTが地図情報のゼンリンと提携したのも、MoTにトヨタ自動車などが出資しているのも、タクシーが持つデータ収集力を期待してのものと言える。

 他にも鉄道会社や通信会社、自動車会社などが開発・実用化を進める「MaaS」(移動のサービス化)でもラストワンマイルを担う「最後の砦はタクシーになる」と岩田氏。

 駅までしか行けない鉄道や雨に濡れる自転車など、それぞれに限界や弱点がある一方で、タクシーは生活インフラの1つになっている。その意味でも、タクシーが今後、大きく活躍の場を広げる局面が増えてくると見込まれる。

 日本交通会長の川鍋一朗氏は「これからがタクシーのゴールデンエイジ(黄金時代)」と語る。タクシー業界はピークの約2・5兆円超から現在は約1・6兆円と縮小の一途を辿っている。

 そもそも同氏がタクシーのデジタル化に一気に舵を切ったのはライドシェア大手のウーバーやリフトの存在を知って「タクシーは変わらなければ生き残れない」と危機感を感じたからだ。

 タクシーが誕生して109年。まさに100年に一度の変革期にある中、タクシーがその存在感を大きく高めようとしている。


新タクシーアプリ『GO』でタクシーを利用する若者を増やしている

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