2021-12-23

【倉本聰:富良野風話】ガラパゴス・シニア

シニアとは一体、何歳以上を言うのか。気になって調べたら、これがまことにバラバラである。

 国連ではシニアの定義を60歳以上としているが、WHO(世界保健機関)では65歳以上と定めており、そのうち65歳から74
歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と定めているらしい。一方、東京都委託事業の東京しごとセンターでは55歳以上をシニアコーナーと呼んでいるから、いかにこの言葉がいい加減に使われているかが判る。では一般人はシニアの定義を何歳位と考えているのか。それを年齢別に調査したデータがある。20代から50代の人はシニアの年齢を平均63歳ぐらいから上と答えており、一方60代より上の世代はシニアをもっと高い年齢だと意識しているらしい。そして70代以上の人間となると、自分の年齢とシニアだと思う年齢にほとんど差を感じなくなっている。つまり、自分をジジイだババアだと、あきらめの中で認めてしまうものらしい。

 65歳以上を一応、高齢者として、都道府県別の高齢化率を見ると、2018年(平成30年)のデータでは1位が秋田県の36・4%、2位が高知県の34・8%、3位が島根県の34・0%で、これを2045年(令和27年)に当てはめて推定すると、1位が秋田の50・1%、2位が青森の46・8%、3位が福島の44・2%と大変な数字になっており、このデータから日本の現状を見ると、もはや人口の30%が高齢になりかかっていることが見てとれる。

 さてここで現在の、政治行政がとっている庶民への手続きその他、諸式のやり方説明の方法である。コンピューター世代のお役人たちは、自分たちが判るから誰にでも判るとお考えかもしれないが、我々のような後期高齢者、デジタルを教えられず、アナログ一筋でやってきたガラパゴス世代の老人たちには、何をどうするのかさっぱり判らない。

 たとえばワクチンを打つための申込方法一つとっても、おっしゃることがさっぱり判らないから、近辺の若者に頭を下げてやってもらうしか方法がない。これでは年長者の尊厳も何もない。若いガキ共にペコペコ媚びてお願いしている自分に腹が立つ。世間の全てがパソコンの扱いを判っていると思っているなら、行政のとんでもないカンチガイである。

 一つには、これは国の政治を司る中央(東京)の近代化レベルと、地方の人間の知的レベルの差を、中央があまり判っていないせいかもしれない。ちなみに、先程の高齢化率のデータによれば、東京は他県に比べて格段に低く、2018年は高齢者の割合は23・1%。2045年の推定でも、まだ30・7%である。とはいえ、既に高齢者率が20%をもう超えている。それだけの人間がワクチン接種の申込み一つに首をひねって困惑している。行政にいま望みたいのは、ガラパゴス・シニアにもう少し優しい、判り易い説明と社会のシステムである。

【倉本聰:富良野風話】老人たちよ

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