2020-12-17

日本赤十字社・大塚義治社長が語る「自然災害時の救護と感染症対応」

大塚義治・日本赤十字社社長



 ─ クルーズ船対応は終わっても、未だにコロナ対応は続いているわけですね。現状の取り組みはどうなっていますか。

 大塚 これは日赤だけでなく、全国のあらゆる病院が日々の対応に追われているわけですが、赤十字病院では全体の3分の2ほどの約60病院が何らかの形で入院患者を受け入れたり、外来診療に当たっています。9月末の段階で延べ2千人弱の入院患者を受け入れ、外来患者は約1万1千人になっています。

 県によっては、県内の約3分の1の患者さんを赤十字病院が受け入れた県もありましたし、医療崩壊が起こるのではないかと言われた頃には、もう一人重症患者が増えたら切迫した状況に至った病院もありました。

 感染症の患者さん対応というのは、通常の入院患者さんの何倍もの人員を要しますので、手厚いスタッフ体制を組まなければなりません。同じスタッフをずっと張り付けるわけにはいきませんし、患者さんはいわゆる陽性者ですから、他の方にうつさないように、つまり院内感染を防ぐための特別な配慮も必要です。

 ですから、すぐにやる必要のない手術は先伸ばししてもらうとか、入院も少し遠慮してもらうとか、コロナ対応と一般患者さんの対応の2つを同時にこなさなければならないということで、医療現場は本当に大変だったと思います。

 ─ スタッフの心労も相当なものでしょうし、経費もかかるしで大変でしょうね。

 大塚 実は算盤の話をすると大変なことになっていまして、今の段階では、卒倒しそうな大赤字です(笑)。日赤全体で何とか資金を回している状態なんですが、おそらく間もなくこれも手一杯になりますので、金融機関から借り入れをするしかないと思っています。

 ─ 資金手当ての方法も法律で定められているんですか。

 大塚 いや、それはありません。今でも各病院は民間の金融機関から相当な金額を借り入れています。ただ、今のところコロナ対応に関しては、本社がまとめて資金調達をして、それを各病院に手当てしていたんですが、これもいつまでも続くわけではないので、これから大きな問題になってきます。国や自治体もかなりの規模の予算を確保し、これに対応しようという姿勢ですので、わたしたちも大きな期待を寄せております。

 こうした財政問題は、われわれ管理部門の役目でも責任でもあるわけですが、今も医療現場では大変な苦労をしている多くのスタッフがいるわけです。特に頭が下がるのは、現場では厳重な対策をとっていても、スタッフに感染者が出てしまうことを完全には避けられない。現にそれなりの数の感染者が出ていまして、これは本当に気の毒だと思いますが、彼ら、彼女らの使命感と言うんですかね、これには頭が下がります。

一種の啓発活動も開始


 ─ もともと日赤に入ってくるというのは、そういう使命感があるわけですよね。

 大塚 もちろんそうなんですが、そうは言っても、やはり現場の方々の話を聞くと相当なストレスになっています。ウイルスは目に見えるものではないので、いくら専門職だといっても自分がかかるかもしれないという不安があります。それよりむしろ、仮に自分がかかると家族にうつしてしまうこともあるという不安。特に高齢者や小さなお子さんが同じ家にいると、それは心配ですよね。

 例えば、これは一部で報道されたりもしていますが、自分がコロナにかかっているわけではないのに、お子さんが幼稚園から来ないでくれと言われたとか、奥さんが病院で働いているというだけで旦那さんが職場に来るなと言われたとか、一種の風評被害のようなことも現実に起こっています。

 そういう現場からの声があって、医療や心理、国際救援などの経験が豊富なスタッフがチームとなって、いろいろな注意事項をまとめたパンフレットやアニメーション動画をまとめたんです。これが非常に評判が良くて、学校の授業で使いたいとか、自治体の社会教育で使わせてくれとか、多くの問い合わせを頂戴しました。

 ─ これは具体的にどのようなものですか。

 大塚 新型コロナウイルスには3つの感染症という顔があるということなんですが、少し具体的に言いますと、「体の感染症(病気そのもの)」、「心の感染症(不安と恐れ)」、「社会の感染症(嫌悪・偏見・差別)」の3つの顔があって、これらが〝負のスパイラル〟としてつながることで、更なる感染の拡大につながるということなんですね。

 医学的にも未知の感染症ですから誰でも恐い。そのあまり、間違った情報などにも過敏に反応し、恐怖心が増幅される。すると、感染した人やその周囲の人を避けたり、バッシングしたりしてしまう。それは同時に、自分が感染者として差別されたくないから逆に病院に行かなくなるとか、あるいは、感染したことを言えないようになってしまう。そして、それがまた感染者を増やすことにもなりかねない。

 そういう負のスパイラルを断ち切るためのガイドラインをつくったということなんです。

 ─ これは日赤のホームページなどでも公開しているんですか。

 大塚 はい。アニメーションは3分くらいですが、公開から3カ月で200万回以上再生されるというヒットになりました(笑)。

 やはり、感染症の拡大を防ぐには、われわれ一人ひとりが正しい知識を取得し、正しく恐れ、正しく行動して、負のスパイラルを断ち切ることが大事なのではないでしょうか。そのために、われわれ日赤としても、オール日赤として全力を傾けて、一つひとつできることから取り組んでいきたいと考えています。

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