2020-12-16

長期政権への足がかりを作りつつも緊張感が続く菅首相の日々

イラスト:山田紳

新型コロナウイルスの感染拡大や日本学術会議新会員の任命拒否問題にもかかわらず、内閣の支持率は下げ止まり、首相・菅義偉は政権運営への自信を深めている。温室効果ガスの排出を2050年までに「実質ゼロ」にすることや携帯料金の引き下げで、菅は長期政権への足がかりをつかみたいようだ。だが、前首相・安倍晋三の「桜を見る会」の問題もくすぶる。足元をすくわれない政権運営が必要だ。

※12月9日時点

評価高い50年ゼロ

 地球温暖化対策は待ったなしの課題だ。菅は50年までに二酸化炭素(CO²)など温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にすると所信表明演説で表明した。遅いとの批判はあるが、「50
年ゼロ」を打ち出したこと自体は評価されているようだ。

 毎日新聞が11月7日に行った全国世論調査では、温室効果ガスの排出を50年までに実質ゼロとする削減目標を首相が表明したことについて、68%が「評価する」と回答。「評価しない」は20%にとどまった。

 温室効果ガスを削減するためには、「再生可能エネルギーを増やすべきだ」が72%に上り、「原子力発電所を増やすべきだ」はわずか6%にとどまった。「両方増やすべきだ」は16%で、再生可能エネルギーの比率を引き上げることに国民の期待は集まっている。

 15年に採択された国際的な温暖化対策の枠組み「パリ協定」は、50年頃に「実質排出ゼロ」にする必要があるとした。19年に欧州連合(EU)が「50年ゼロ」の目標を打ち出し、現在はパリ協定を批准する189カ国・地域のうち122が「50年ゼロ」を宣言した。

 日本政府はこれまで年限を切ることに消極的だった。11年の東日本大震災以降、原子力発電所の再稼働を思うように進められない日本は、CO²を大量に排出する石炭火力発電へと依存していった。

 20年3月に国連に提出した国別の削減目標でも、排出実質ゼロの達成時期は「50年にできるだけ近い時期に」と表現するにとどまった。

 この表現ですら、安倍の側近だった首相補佐官・今井尚哉は「ゼロを達成する根拠がない」と疑問視した。原発にこだわる経済産業省出身の今井が政策を主導する中では、電源構成の大胆な見直しを含めて年限を切る政策を打ち出すことは困難だった。

環境技術で遅れた日本

 原発の再稼働と天然ガス、石炭火力に頼る中、再生可能エネルギーを巡る日本の環境技術は諸外国から大きく後れを取っていった。太陽光発電の発電量はいまや中国が1位。中国は10年ほど前までは再生可能エネルギーによる発電がゼロだったことを考えると飛躍的な進歩だ。

 2位は米国で、日本は3位に甘んじている。日本の太陽光発電は1970年代から始まり、2000年頃までは世界1位の生産・導入量で、04年には世界に流通している太陽光パネルの約半分を日本が生産していた。だが、現在は1%ほどに下がり、生産面でも中国に大きく水をあけられた。

 風力発電でも日本は大きく出遅れている。17年の世界の風力発電国別導入量では、1位は中国、2位米国、3位ドイツ、4位インド、5位スペインで、日本は19位。風力発電の設備でもスペイン、中国などの企業がリードしている。

 再生可能エネルギーをどう効率的に活用できるか─。環境技術の肝といえるが、かつての環境先進国・日本はこの分野で大きく立ち遅れた。

 加えて、世界最大のCO²排出国・中国の習近平国家主席は9月22日の国連演説で、「60年までに実質ゼロとすることを目指す」と表明。米国も、大統領選で勝利する見込みの民主党のバイデン氏はパリ協定復帰や50年ゼロ宣言を公約に掲げた。

「バイデン氏が当選すれば、必それを見越して日本としても孤立を回避するために年限を切る必要があった」と自民党議員は語る。国際政治的にも日本は追い込まれつつあった。

 今井らのしがらみから離れ、菅は流れを変えた。菅に近い経済産業相・梶山弘志と環境相・小泉進次郎らが水面下でゼロ宣言の打診を続けていた。

 課題は原発をどうするかだろう。国のエネルギー基本計画は30年度の電源構成を、火力56%▽再生可能エネルギー22~24%▽原子力20~22%─とする。政府は21年夏の計画改定に向けた議論を始め、再生可能エネルギーを主力電源にすると発信しているが、原発の新増設については「現時点では想定していない」(菅)などと歯切れが悪い。

 梶山は「再エネや原子力など使えるものを最大限活用し、水素など新たな選択肢も追求する」と、蓄電池や洋上風力発電、カーボンリサイクルの普及に向けた支援策を盛り込んだ実行計画を年末までに策定するとしているが、まさに急務だ。

 同時に、原発の一時的な再稼働はやむを得ないとしても、新増設で原発依存を強めることは避けるべきだろう。菅は所信表明演説で「(50年ゼロで)世界に貢献していくことは、新たなビジネスチャンスにつながる。この挑戦は日本の成長戦略そのものだ」と語ったが、脱原発を進めてこそ日本が再び環境技術立国になれる未来は見えてくる。

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