2020-12-16

日本初の「環境株主提案」を実行、環境アクティビスト・気候ネットワーク首脳に直撃!


エネルギー安全保障とCO²削減のバランス


 2020年、「第6次エネルギー基本計画」の議論が始まり、21年には公表される。これまで石炭火力は「ベースロード電源」(一定量の電力を安定的に低コストで供給できる電源)と位置付けられてきたが、経済産業省が、低効率の石炭火力の廃止方針を示したことから、この位置づけがどうなるかが注目されている。

 現在、高効率とされる石炭火力の方式は「超々臨界圧微粉炭火力発電」(USC)で、発電効率は約40%。それに続いて開発されている技術「石炭ガス化複合発電(IGCC)」では発電効率は約46%に向上し、CO2排出量もUSCから15%程度減少させることが可能だという。

 さらに将来に向けては、IGCCと燃料電池を組み合わせた「石炭ガス化燃料電池複合発電」(IGFC)がある。これが商用化できれば発電効率が55%、CO2はUSC比で約30%削減できる。

 石炭も無資源国日本にとってはエネルギー安全保障上重要な存在。石炭を使い続けるならば、次世代技術によるクリーン化は不可欠。その意味で、対応を厳格化したみずほFGも、エネルギー安定供給に必要不可欠で、CO2削減を実現するようなリプレース案件には対応する可能性を示している他、革新的、クリーンで効率的な次世代技術の発展に向けた取り組みは引き続き支援するとしている。

 例えば、経済産業省は今、低効率な石炭火力の早期の休廃止を促す措置の議論を進めているが、「日本は原子力発電が再稼働しない中、リプレースはエネルギー事情からやむを得ない面がある。我々の方針は、そうした事情も勘案したものになっている」(森西氏)。

 だが、気候ネットワークは、CO2削減の立場から石炭のリプレース、技術開発には否定的。「経産省の方針は、むしろ石炭火力を温存しかねないと危惧している。また、USCは途上国にも展開されているが、これを認めると現状維持になる。IGCCやIGFCは、途上国ではコストが高すぎて受け入れられないのではないか。また、次世代技術が実現してもCO2が半分になるわけではない。しかも実用化が2030年以降。パリ協定を達成するには今、石炭火力を止めるしかない」(平田氏)

 その意味で、日本として原子力発電の位置づけを含め、国全体のエネルギー安全保障と、CO2削減をどうバランスさせていくかが問われる。

ESG投資を巡る世界の潮流


 今回のみずほFGと気候ネットワークの議論は、今後に向けた一つの指針になる可能性がある。実際、影響は着実に広がっている。みずほFGの総会後、7月29日には三井住友フィナンシャルグループが2040年を目途に石炭火力発電向けの貸出金残高をゼロにするという目標を掲げた。

 だが「今後さらにパリ協定の目標達成にはポートフォリオを脱炭素化していくことに踏み込んでいかなければいけない。引き続き、みずほFGを含め、取り組み強化に向けて背中を押していかないといけない。パリ協定達成は時間との戦い。株主として次なる行動をどうとっていくかを検討している」(平田氏)。みずほFGの総会は終わりではなく、むしろ始まりと言える。

 今、世界的にESG(環境・社会・ガバナンス)投資の潮流が強まっている。特に2015年の国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)が採択されて以降に加速した。

「総会で得た34・5%の賛成は、私達の力だけで実現できたものではない。世界ではESG投資は当たり前で、もっと厳しく見ていくという投資家の目線が、ようやく日本にも輸入された形。この動きはさらに強まることになる」(平田氏)

 今は、環境に取り組むNPO・NGOが世界で気候ネットワークのように株主提案をしている。この「環境アクティビスト」の存在は今後、ますます高まる可能性が高い。さらに投資家の目線はNGO・NPOと一体化、あるいはそれを超えて厳しくなる可能性もある。「日本もこの潮流を捉えて、先手を打っていって欲しい」と平田氏。

 平田氏らは、これまでのみずほFGの動きには一目置いている面もあるようだ。「みずほFGの方針は十分とは言えないが、経営陣、担当の方々含めて議論してきた中で、パリ協定に対する問題意識が深くなっていることが認識できた。そして、みずほFGが打ち出した方針は、明らかに国の方針を超えている」と話す。

 みずほFGは、世界、投資家、市民社会の変化を受けて、方針を強化した。ここに平田氏は企業が変わる可能性を見ている。脱炭素社会に向かう方向性は一致しているが、その具体策、時間軸で意見が分かれる問題。難しい課題だが、関係者同士で建設的な議論を戦わせ、知恵を生み出していく必要がある。

「健全な対話を続けて、企業の背中を押していく」


気候ネットワーク理事   平田 仁子

 気候ネットワークは、1997年に日本で開催された第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)採択された「京都議定書」をきっかけに正式に発足しました。国内で気候変動問題を解決するためにできた、民間の団体です。

 長らく、国の政策や法律に関する提言をしてきている他、市民の皆さんの意識を変える、啓発活動にも取り組んでいます。

 ただ、この数年は石炭火力の建設計画が相次いでおり、政策変更を待っていては間に合いません。そこで建設計画のある地域の人達との連携や、事業者、金融機関に考えてもらうための活動に軸を移しています。

 私達はみずほFGを始め、企業とケンカをするというよりは、応援しているつもりです。健全な対話を続けながら、前に向かえるように背中を押していきたいと思っています。

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