2021-12-08

伝統の多角経営を進化【旭化成 ・小堀秀毅】の『3領域経営』と『GDP戦略』

旭化成社長 小堀秀毅

コロナ禍など“不確実・不連続の時代”にあって、経営基盤をいかに強化していくか─。
「わが社は100年、多角化経営をやり続け、それなりに成長してきた企業」として、これまでの経験・知見を活かして「マテリアル、住宅、ヘルスケアの3領域に注力していく」と旭化成社長・小堀秀毅氏は語る。なぜ、3領域経営なのか? 
「椅子でいえば、やはり1本、2本の脚の椅子より、3本の脚の椅子の方が強いし、安定感があります」と小堀氏。時代の分岐点ということでいえば、温室効果ガス(CO2)排出削減など地球規模での課題に関して、グリーン化(GX)、デジタル化(DX)に加えて、People(人材)育成プロジェクトを起こし、それぞれの頭文字を取った『GDP戦略』を推進。「総合化学のテクノロジーを生かして、新しいビジネスを起こすチャンス」という中で、既存事業のポートフォリオの変換をどう進めていくのか。グループ内の意識変革を伴うGDP戦略の今後の展開は─。
本誌主幹
文=村田 博文

CO2を原料に有用な機能素材を!

『GDP戦略』で対応─。
 地球規模で進むグリーン化(GX)、デジタル化(DX)の波。異常気象による自然災害が頻発する中、各国首脳が11月初め、英・グラスゴーに集まり協議、それぞれの目標を掲げた。コロナ禍というパンデミック(世界的大流行)の中、温室効果ガス削減は各国が一致団結して取り組むべき課題だ。

 この問題は、企業レベルでも、生き残りのための最重要課題の1つとして浮上。旭化成も2030年までにCO₂(二酸化炭素)排出削減目標を具体的に決め、CO₂を原料にポリカーボネート樹脂をつくる事業を起こすなどしている。
 ポリカーボネート樹脂は航空機や自動車、電子部品、医療機器の部材として使われ、耐衝撃性、耐熱性などに優れた物性を持つ樹脂だ。
 何かと嫌われもののCO₂を原料にして、有用な機能素材をつくりあげる事業として注目される。

21世紀末時点で、平均気温の上昇を、産業革命前と比べて1・5度以内に抑えようという『パリ協定』。そうした世界的目標を企業レベルまで落とし込んでの活動も、この〝ポリカーボネート樹脂〟案件のように具体化してきた。
 デジタル化(DX)についても、小堀秀毅氏は次のように語る。
「経営の高度化、効率化、また新たなビジネスモデルの創出において、DXをどうやって活用していくか。この取り組みが重要です。われわれは研究開発からそれを行い、工場もスマートファクトリーにしていく。それと、新しいeビジネスモデルの創出、経営マネジメントの見える化、こういうテーマをわれわれは抱えていますが、そういうテーマの解決へ向けて、デジタル共創本部を設置。その共創本部が各部門に入っていき、共に新しいやり方を創っていく」

 小堀氏は、経営の持続性(サステナビリティ)のためにも、また新しいeビジネスの創出のためにも、GX、DXの推進は不可欠と強調。さらに、そうした課題を担うのは「人」だとして、次のように語る。
「人が従来のリアルな仕事とリモートワークという2つをハイブリッド(融合)させながら、いかに働き方改革を進めていくかということですね」

 国民の平均寿命は男女とも、80歳以上になり、ただ生きているだけではなく、最後まで健康に心豊かに暮らすことが大事という考えが強まる。
 生涯現役という言葉も浸透。旭化成の定年は旧来60歳だったが、65歳に延長する考えだ。
「今後は定年延長をもっと活用していく。われわれは、終身雇用から終身成長にしていきたいと考えています」

 社員を年齢別構成で見ると、シニア層が多く、このシニア層の活性化が大事と小堀氏は語る。そして、ダイバーシティ(多様性)重視の観点から、「女性や外国人の活躍の場をつくっていきたい」とも強調。
「終身成長の重要なポイントは、若いうちから、キャリアパス、自分がこの会社において、どういうパス(道)を拓き、経験を積みながら成長していくのか。キャリアパス形成のルールを作ったりしています」

 GX、DX、そして人材(People)育成と、それぞれの頭文字を取ってのGDP戦略の実践である。
 GDP(国内総生産)は、その国の経済力や成長性を示す指針となるが、旭化成は自分たちの経営基盤を強化していくうえでの戦略として、『GDP』を掲げる。
 そのGDP戦略を進めていく上で大事なことは何か?
「わたし自身が言っているのは、会議体を変えようと。会議の中身を変える。データを見て単に報告するだけではなく、むしろ、そのデータで見えてくる課題だとか、次なる施策についてディスカッションを起こしていくように切り替えています」

 DXで単に〝見える化〟を図るだけでは、経営の高度化、効率化にはつながらない。
 課題を共有し、それを克服すると共に、ビジネスの修正をし、さらには新しいビジネスの
掘り起こしにつなげていこうという考え。

本誌主幹 村田博文

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