2020-12-16

日本初の有人飛行に成功、トヨタ出身・福澤知浩がつくる「空飛ぶクルマ」

2023年の実用化

 午前8時30分。東京・六本木で働くサラリーマンが鎌倉の自宅で目覚める。会議は午前9時から。着替えを済ませると、自宅の駐車場に止めてある飛行機のような形状をした乗り物に乗り込む。機体に取り付けられたプロペラを使ってドローンのように離着陸する「空飛ぶクルマ」だ。自宅の近くにある広場から飛び立ち、空を飛んで六本木のオフィスに降り立つ。

 まるでSFのようなシーンだが、これが現実のものになるかもしれない。この「空飛ぶクルマ」で日本初の有人飛行に成功したのがスカイドライブ。2023年の実用化の際には、最高高度500㍍を時速約100㌔で飛行できるようにする考えだ。
 同社代表取締役の福澤知浩氏は「都内を走るタクシーの平均速度は時速約30㌔。道路や建物があるために遠回りしたり、渋滞にあったりするためだ。しかし、『空飛ぶクルマ』ができれば、これらの障害がなくなり、行きたい所から行きたい所に素早く、かつ、楽しく移動ができるようになる」と意義を語る。

 そもそも「空飛ぶクルマ」の定義とは何か。それは①電動②自動運転③垂直離着陸だ。つまり、エンジンを持つ車などと比べても部品点数が少なく済むため整備コストが安くなる。また、操縦士が不要となるため、誰でも自由に扱える。そして滑走路や舗装された道路などが不要となり、インフラ設備に左右されない発着が可能になるわけだ。

 今回の有人飛行に成功したことで福澤氏は具体的なサービスの姿に言及する。25年に開催予定の大阪万博に先立ち、23年に大阪湾岸エリアで「エアタクシー事業」を開始する考えだ。自動運転になるまでは操縦免許を保有する操縦士が必要で、自動運転は28年度開始を目途に開発を進める。空域も第一段階として地上150㍍を目指す。

 この大阪湾岸エリアは「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」や世界最大級の水族館「海遊館」などの施設が集まるエリアだが、交通インフラが未整備で、約5㌔㍍の移動に30分以上かかっていた。ここを「空飛ぶクルマ」でつなぐ。移動時間は約5分に短縮できる。

 数年後には更に航続距離を伸ばし、神戸空港や関西空港と大阪湾岸を直結させることも視野に入れる。運賃は5分ほどの飛行で4万円程度を想定。同エリアでのヘリコプター移動の半値だ。東京でも羽田空港と品川を結ぶ航路などの実現を目指す。

 有人飛行の実現はスカイドライブにとって追い風だ。同社は日本政策投資銀行や伊藤忠商事、ENEOS、大林組、NECのほか、リース会社やドローンファンドなど10社から計39億円の資金調達を完了。事業者が多く参画している点が特徴だ。

 例えば、ENEOSはガソリンスタンドを活用した充電・離着陸ポートの整備を支援し、NECは運行管理システムの構築を支援する。三井住友ファイナンス&リースは機体のリースを担当するなど、「空をつなぎ、客をつなぐことで儲かる商売にしたい」(伊藤忠商事常務執行役員の都梅博之氏)という。

 スカイドライブは18年の設立。トヨタ自動車の部品調達部門で"カイゼン"を実施し、賞まで獲得した福澤氏が14年に設立した有志団体が前身だ。「自動車産業の現場を知り、部品メーカーとの仕事を進めていく中で、沸々と湧き上がってきたのが『空飛ぶクルマ』の構想だった」と福澤氏は振り返る。

安全性の担保や法整備が課題

 気になるのが機体の安全性だ。福澤氏は「現時点ではプロペラが1つ停止しても、故障箇所をセンサーが識別し、残りのプロペラの回転数を上げることなどによって水平状態をキープし、無事に着陸できる」と語る。「空飛ぶクルマ」は航空法の適用を受けるため、航空機と同じように、安全性を証明する国の認証が必要となる。その意味では、何をもって「安全」と認証するのか。国や企業、専門家も交えた議論を重ね、「空飛ぶクルマ」に適用される法制度構築が不可欠となる。加えて、飛ぶ空域はどこになるのかという問題や航続距離を延ばすためのバッテリーの開発や離発着する拠点の整備などハードルは多い。

 安全面では航空機と同じレベルの認証を得る必要があることから、同社は4月、元三菱航空機副社長の岸信夫氏を最高技術責任者として迎えた。三菱重工業と三菱航空機にて旅客機などの開発に37年間従事した航空機のスペシャリストだ。岸氏は「前例のない審査にクリアするハードルが残っている」と語り、「安全・安心をきっちりと担保した上で、新しい産業革命のきっかけになりたい」と意気込む。

 ただ、「空飛ぶクルマ」の市場争奪戦は始まっている。ウーバーが「空のタクシー」構想を打ち出しており、独ベンチャー企業はシンガポールで有人飛行に成功。中国のベンチャー企業・イーハンも既に有人の飛行実験を行っている。国内外で大企業が「空飛ぶクルマ」に関連するベンチャー企業に出資するケースも多いだけに、競争は年を追うごとに激化している。

 米モルガン・スタンレーの予測では、垂直離着陸できる小型航空機などを含めた「空飛ぶクルマ」の市場は40年頃には170兆円になると予測されている。ビジネスでの移動のみならず、観光周遊や建設現場などの分野でも「空飛ぶクルマ」の活躍が見込まれるからだ。
「ものづくりのベンチャー企業として日本を盛り上げていきたい」と語る福澤氏。トヨタも協賛金を拠出するなど、空飛ぶクルマでつながりを持つ中、移動にイノベーションを起こす夢の乗り物の実現に向けて汗を流す日々が続くことになる。

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