世界的エネルギー不足、インフレ懸念の中で
─ 先ほど、再生可能エネルギーのお話がありましたが、足元では世界的なエネルギー不足が起きており、原油価格も高騰しています。この問題をどう考えますか。
竹森 長期の問題と短期の問題があると思っています。欧米ではインフレ懸念も出ていますが、これまではコロナ禍もあって消費の機会がなく、需要が出ていなかったわけです。
経済活動が戻るにつれ、消費者は手元にあるお金を使い始めるわけですが、消費が急激に大きくなった時に供給できるだけの余力がなかった。それでエネルギー価格は上がり、半導体の不足も起きています。
ただ、これは徐々に落ち着いていくだろうと見ています。こうした動きの中で、「インフレだから」と金利を上げる中央銀行、「いや、そこまでする必要はない」とする中央銀行など判断は分かれてくるでしょう。しかしこれは長期的なエネルギーの問題とは別の話です。
─ 脱炭素の問題とは別だということですね。
竹森 2030年というのは、そんなに先の話ではありません。もし、脱炭素化に踏み切り、太陽光発電や洋上風力発電を大々的に推進していくということであれば、ある程度スケールを持って取り組む必要があります。
例えば、洋上風力でいうと、秋田県では1基あたり3メガワットのタービンを計画していますが、参画企業1社あたり200基建てなければ、コストは十分に下がりません。
さらに、先ほどもお話したように、政府が「推進する」とはっきり言わなければ、企業はそのための投資もできません。はっきりとしたコミットメントが必要だということです。
─ 太陽光パネルは中国、洋上風力の設備は北欧と、再生可能エネルギーの機器は海外に依存している現状がありますね。
竹森 確かにそうですね。ただ、例えば風力について、国内勢の日立製作所は撤退しましたが、戻ってこられる状態にあると聞いています。
安全保障面を考えたら、再生可能エネルギーに取り組むにあたっては、協力者が欧州企業ということもあり、洋上風力の方が安全ではないかと見ています。
─ 欧州、EU(欧州連合)各国は日本のパートナーとして信頼すべき相手だということは言えますか。
竹森 今回、なぜ世界が脱炭素に向けて動いているかというと、欧州が海外からの輸入品に対して「国境調整税」を課そうとしているからです。脱炭素化が進まない国からの輸入品に、炭素の排出量を計算して課税する政策、つまり炭素税の国際版を用意しているわけです。
この欧州の脱炭素が「台風の目」になっているわけです。欧州は、これをとにかく推進する方向で動いていますから、日本は何らかの対応を取らざるを得ないというのが現状です。
─ 米中対立もある中ですが、世界でGDP(国内総生産)2位という位置にある中国との関係をどう考えますか。
竹森 基本・経済は経済の問題として、取引を進めるべきだと思いますが、中国との間で安全保障上の問題が起こったら、日本単独で対抗するのは難しい。そのために米国、欧州と共同歩調を取っていく必要がある。
また、中国に対して、「これは認めるが、これは認めない」という形の根本ルールのようなものを米国、欧州と相談して決めていく。豪州の例を見ても、日本1国だと中国に叩かれる恐れがあります。
豪州の例は不思議で、中国は豪州産の石炭の輸入を禁止したわけですが、そのせいで今、中国では石炭が不足して困っているのです。
─ いずれにせよ、中国と1対1で対峙することのないようにする必要があると。足元で日本、米国、豪州、インドの4カ国による外交・安全保障の協力体制「Quad」(クアッド)がありますが、これは一つの方策と言えますか。
竹森 そうですね。ただ、米バイデン政権は最初から4カ国体制に前向きで、豪州も同様の姿勢でしたが、要となってくれることを期待していたインドが思った通りには動いてくれていないのが現状です。
例えばワクチン外交でも、インドにワクチンを製造してもらい、米国や欧州、日本が後ろについて、世界に配るというような構想もありましたが、インドで感染大爆発が起きてインド製ワクチンが使えないのです。
その間に中国がワクチンをラテンアメリカ、アジアに配布していって、中国のワクチンは国際標準だという既成事実をつくってしまった。ワクチン外交はうまく行っていません。
─ ワクチンに関して言えば、日本はまだ国産のコロナワクチンを持てていません。塩野義製薬のワクチンは来年にも投入される見通しですが、なぜ日本ではいち早く国産ワクチンがつくれなかったのか。
竹森 日本では1980年頃から、ワクチンの副作用問題や薬害エイズ問題などをマスコミが大きく取り上げて、バッシングしていった結果だと思います。
私が子供の頃にはワクチンの接種義務がありましたが、ワクチンの普及によって感染症が減り、保健所は縮小していきました。そしてワクチンは、より一層副作用を重く見て、認証が遅れていきました。
今回のコロナ禍では、ワクチン接種が1カ月早ければ、東京オリンピック・パラリンピックが有観客で開催できたなど、いろいろなことが全く違う展開になっていたでしょうし、国民感情も一丸になることができていたのではないかと思います。