2020-12-16

なぜ今、丸紅は水素に注目するのか?

相良明彦・丸紅常務


水素の社会実装は2030年代?


 豪州南東部に位置するビクトリア州。メルボルンから150㌔㍍ほど離れた地区で、日本と豪州間における水素サプライチェーン(供給網)構築に向けた実証事業が行われている—―。

 これは未利用の〝褐炭〟と呼ばれる水分の多い炭をガス化して水素を取り出し、液化水素の形にして運搬船で日本に運んでくるというもの。丸紅が2018年から、川崎重工業、電源開発、岩谷産業などと取り組む共同プロジェクトだ。ビクトリア州には世界の2割に相当する褐炭資源が埋蔵されている。年明け1~3月には、豪州から神戸へ向け、初の輸送試験を実施する予定。丸紅は2030年頃の商用化に向けて課題抽出やコストの検討を行っている。

「当社では数年前から水素委員会という組織を立ち上げ、全社を挙げて未来の燃料として水素に注目してきた。近い将来必ずや水素社会が到来すると思うし、今は用途が輸送用と民生用に限られているが、いずれ発電用の燃料として水素が使われる時代が来ることを見越して、様々な手を打っていきたい」

 丸紅常務執行役員エネルギー・金属グループCEO(最高経営責任者)の相良明彦氏はこう語る。

 世界約20カ国で発電事業を展開する丸紅。発電の持ち分容量は約1200万㌔㍗、総合商社で最大級の規模を誇る。同社は2018年に総合商社の中でいち早く〝脱石炭火力〟を打ち出すなど、脱炭素に向けた動きを加速させている。

 同社が近年注力しているのが、化石燃料に代わる新たなエネルギー関連事業をつくりだすこと。中でも白羽の矢が立ったのが、CO2(二酸化炭素)を排出しない次世代エネルギーとして注目を集めている水素だ。現在は水素を活用した燃料電池自動車(FCV)や家庭用燃料電池「エネファーム」などへの活用が期待されている。

 商社業界でも、今年6月には三井物産が米国の水素ステーション運営会社に国際協力銀行と共同出資を決めた他、8月には住友商事がイスラエルで水素製造技術を開発するスタートアップ企業に出資。各社とも水素関連ビジネスへの関心は高い。

 ただ、水素は通常気体として存在するため、液体にするにはマイナス260度くらいに冷却しなければならない。体積当たりのエネルギー密度が小さいこともあって、輸送方法や貯蔵方法が大きな課題となっている。

 そこで水素の利活用を増やすため、現在は発電分野での利用が見込まれている。具体的には、火力発電に使用する燃料のLNG(液化天然ガス)や石炭火力に水素などを混ぜて発電させるというもの。この実現のカギを握るのがアンモニア。元素記号で「NH3」と表記されるアンモニアは、水素(H)を含んでおり、水素を低コストで効率よく輸送・貯蔵できるからだ。

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