2020-12-17

ヒューリック会長・西浦三郎の「危機に動じない経営」とは?

西浦三郎・ヒューリック会長

「今」と「将来」のバランスを意識して

「この場所は両国国技館、江戸東京博物館、旧安田庭園、刀剣博物館など観光の集積地であることに加え、隅田川がある。隈研吾さんからも川の周辺は各国で賑わいを生む場所になっていると言っていただいた。隅田川と両国の街を結びつける建物にできたら」と話すのは、ヒューリック会長の西浦三郎氏。

 2020年10 月28日、ヒューリックは東京・墨田区で複合施設「ヒューリック両国リバーセンター」を開業した。この施設は東京都、墨田区が所有する土地を活用したP P P(PublicPrivate Partnership= 官民連携)事業として進めてきた。

 PPPは生かされていない官の土地を民の力で活性化させていくもの。ヒューリックはPPPに早くから取り組み、トップランナーと評されるが、西浦氏は難しさも感じている。

 それは「行政のトップの方が積極的でないと、なかなか進まない」(西浦氏)からだ。かつてヒューリックは全国の老朽化した小学校の活用に向け、各自治体に働きかけをしたこともあったが、「全く反応がないところもあった」という。

 一方、区長の山本亨氏が前向きな墨田区ではもう1件準備中である他、奈良県は知事の荒井正吾氏が積極的で、ヒューリックは複数案件を手掛けてきた。

 今回の「両国リバーセンター」も、老朽化した子育て支援施設の建て替えで街ににぎわいを生む狙いがある。施設内には126室の「ザ・ゲートホテル両国 by HULIC」、カフェ、水上バス待合所、両国子育て広場が入っている。

ヒューリック両国リバーセンター
両国の新たな顔となる「ヒューリック両国リバーセンター」

 ただ、観光・宿泊は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けており、西浦氏も「ホテル事業が大変苦しいのは事実。6月くらいまでお客様ゼロという状況が続いていた」と話す。

 それでも「Go Toキャンペーン」がスタートして以降、有楽町の「ザ・ゲートホテル東京 by HULIC」で1000室、浅草の「浅草ビューホテル」で800室の予約が入ったという。

 本来見込んでいたインバウンド(訪日外国人客)もゼロ。しかし西浦氏は「当面楽ではないが、外国人を対象にした調査では『行きたい国は日本』という結果も出ている。コロナが収まったら観光は復活してくる。リバーサイドの良さを生かしていきたい」と中長期を見据える。

コロナ禍で最高益更新


 コロナ禍にあって、ヒューリックの20年12月期の業績見通しは、売上高が3200億円(前期比10・4%減)、営業利益1000億円(同13・1%増)、純利益が620億円(同5・4%増)と減収増益。苦戦する大手も多い中、過去最高益を更新する見込み。

「私がヒューリックに来てから、リーマンショック、東日本大震災があり、今回のコロナ禍もあるが、そういう問題が起きても上場以来、増配・増益してきていることを考えると、一つひとつの事象でガタガタする必要はないのではないか。準備してきたことを、そのままやっていけばいいと思う」と西浦氏。

 むしろ、東京に物件を多く保有するヒューリックとして、西浦氏が中長期的な視点でリスクと捉えているのが、首都直下型地震や南海トラフ地震。ヒューリックは今後10年間で約100棟の開発・建て替えを予定しているが、建築基準法の1・25倍から1・5倍の耐震性能を確保し、マグニチュード7~8の地震に備える計画を持つ。

 こうした取り組みの背景には、西浦氏の長期目線がある。ヒューリックは20年から長期経営計画「10年後のヒューリック」をスタートしている。その中では「資産の入れ替え」も意識。物件を開発し、保有が増えるとバランスシート(貸借対照表)が膨らんでしまう。そこで「駅から徒歩3分の立地」といった条件を満たさない物件は売却していく方針を示す。

 今期のホテルのマイナスも物件の売却などで補えているが、「厳しい状況だから進めたのではなく、あくまでも計画通りに動いているだけ」(西浦氏)。

 また、ヒューリックは19年11月に事業用電力を100%再生可能エネルギー由来にすることを目指す国際イニシアチブ「RE100」に加盟、25 年までの達成を掲げているが、資金が必要な取り組みでもある。

「環境、耐震性など将来に向けて取り組まなければ、後輩達にいい資産を残せない。一方、株主に応えるためにも今、数字を出さないといけない。『今』と『将来』のバランスを考える必要がある」(西浦氏)。西浦氏はこのことを、前長期計画(14年―19年)を策定した時から強く意識してきた。

 開発のための土地の仕込みも重要になるが、リーマンショック、東日本大震災後との違いも感じている。

「当時は安く土地を仕入れることができたのは事実だが、今回は土地の価格が下がっていない。それは土地を保有している人達が低金利下で資金繰りを持ちこたえていることと、外資が資金を入れていることが要因」。実際、入札でも外資とぶつかることが多いという。ただ、20年末以降には徐々に売り物件が出てくると見る。

 今やヒューリックは大手に伍する売上高・利益を上げ、1人当たり経常利益が単体で約4億5000万円と上場企業の中でもトップレベルとなっているが西浦氏は「我々は従業員数200人以下(単体、保険・人材・ホテルなど連結で約2000人)の中小企業。何か特徴を持っていなければいけない」と社内に言い続け、独自の戦略を打ってきた。

 危機の時代、経営者がビジョンを持っている企業が地力を発揮している。

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