2021-10-26

【トヨタ】「ウーブン・シティ」が示唆する次世代事業

造成工事中の建設予定地。早ければ2024年にも住人が入居し、一部が開業する予定。最終的には約2000人が住む

なぜ自動車メーカーがまちづくりに臨むのか──。トヨタ自動車がトヨタ自動車東日本・東富士工場跡地で建設中の実証都市「ウーブン・シティ」。CASE(つながる・自動運転・共有・電動化)の到来でソフトウエアがクルマの価値を決める時代となり、グーグルやアップルといったプラットフォーマーの進出が始まると目される。自動車の本家・トヨタが進める次の事業の種を見つけ出すまちづくりとは?

実証の場で次の事業の種を

「人や建物やクルマがデータやセンサーで全てつながり、互いにコミュニケーションを取ることで、バーチャルとリアルの両方の世界で人工知能技術を検証し、そのポテンシャルを最大化することができる」

 遡ること約1年9カ月前、米・ラスベガスで開催された展示会「CES」でトヨタ自動車社長の豊田章男氏は未来の実証都市「ウーブン・シティ」構想を打ち出した。その未来都市の姿が徐々に明らかになっている。

 ウーブン・シティは人々が生活を送るリアルな環境の下で自動運転、モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、水素などを導入・検証できる実証都市だ。

 トヨタの狙いについて自動車業界に詳しいアーサー・ディ・リトル・ジャパンパートナーの貝瀬斉氏は語る。「クルマを含めて、人々の暮らしをより豊かにするために何が必要か。そのための事業の種を探し出し、すぐに実践できる実証プラットフォームという位置付けではないか」

 例えば、物流システム。宅配便や新聞などの荷物は物流センターに集め、そこから「Sパレット」と呼ばれる自動運転配送ロボットが各住戸の前にある「スマートポスト」に届ける。

 逆に、各住戸から発送する荷物や各家庭で出るゴミについてはSパレットが集荷して物流センターまで運搬する。その際、Sパレットは地上を走行しない。物流専用の地下空間を移動する。

 また、各住戸には室内用ロボットなどの新技術を導入するほか、センサーを活用して冷蔵庫に食材を自動で補充したり、AIで住民の健康状態をチェックするなど、日々の暮らしの中に先端技術を取り入れていく。

 豊田氏はウーブン・シティを「実証都市」と例えるが、その真意は「世界中の科学者や研究者が“生活者”という視点を持って、各自のプロジェクトに取り組んでもらうことができる」(貝瀬氏)ということ。ウーブン・シティの役割は次世代の事業を生み出す場となるわけだ。

 まちづくりを手掛けるトヨタ子会社のウーブン・プラネット・ホールディングス(HD)CEOのジェームス・カフナー氏は「モビリティのほか、エネルギーや農業、食に関連した技術開発やサービスを実施する」と語り、「空飛ぶモビリティ(クルマ)にも関心を持っている。新たな街はそれを紹介する場になるかもしれない」と意気込む。


人の輸送や物品の配達、移動店舗などで自動運転車を活用する

 ただし、これらの仕組みを整備するためにはソフトウエアの力が求められてくる。「ウーブン・シティはゼロからのまちづくり。トヨタ単独ではできない」(幹部)。その欠けたピースを埋める作業をウーブン・プラネットHD傘下の子会社が担う。

 実際、米配車サービスのリフトの自動運転部門「レベル5」や精度地図生成・道路情報解析を手掛ける企業、自動配送サービス企業などを買収したり、出資したりしている。

 そしてソフトウエアの力を備えることはクルマづくりでもメリットを生む。カフナー氏は「デジタルツインによる街の分析が進んでいる」と話す。デジタルツインとは街の全体像や街に関わる様々な要素を3次元のシミュレーション上で再現すること。

 これができると例えばクルマの衝突安全を検証するとき、実際に試作車を用意して衝突実験をすると、多大な時間とコストを擁する。しかし、これが仮想空間でテストできれば、僅かな時間で何千通りものテストを併行して行える上に、実車を必要としないためコストも下がる。

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